ずるくうるわしいものですよ

初めてタッグを組まされたときから、僕は彼女のことを何も知らなかった。
一匹狼。協調性を知らない人見知りな娘。彼女の代名詞はまさにそれで、分け隔てなく誰とでも親しみやすいであろうこの僕でさえ、信用を得るのには時間がかかったものだ。

「アマレット。いい加減、僕のいうことを聞いてください。君はここに残って見張り役をして欲しいと頼んだはずです」
「あなたの意見はどうだっていい。私、死にたくないし」
「それが、味方を守るためだったとしても?」
「味方?笑わせないで。明日には敵になるかもしれない人たちを、仲間だなんて呼べるわけ無いわ」

冷めた目、冷たい心。彼女の瞳は、ジンのあの鋭い眼よりも温度を持たない。相当辛い過去があったのだろうか。知りたいと思っても、彼女は誰にも心を開いていなかったため周りに彼女の境遇を知る者は1人もいなかった。

「無理だ……」
「おいおい、そんなに簡単に諦めるなよ」

机にうな垂れ、スコッチに話を聞いてもらうも、らしくないと笑われる始末。

「いくら僕でも今回は本当に無理だ、お前も会えばわかる」

しかし、そんな冷酷な彼女が何故組織に入ったのか、どういった機会があってこっちに手を染めたのか、その原点を知りたいのも事実。彼女の心を閉ざす何かを、僕がどうにか取り除きたい。
特にあの、ライという男に先を越される前にーー。


* * * *


ある日の朝。2週間ぶりに彼女と2人での任務を任され、僕は助手席に座る問題児と共にあるビルへと向かっていた。

「アマレット。そろそろ段取りの確認をしましょう」
「えぇ…そうね」

久しぶりに見た彼女は、心の何処かに丸みを帯びたような気がする。僕の言うことをガン無視していた2週間前に比べたら、それはもう一目瞭然。僕の作戦を真面目に受け止め、ちゃんと実行してくれた彼女のおかげで任務は無事に完了。何故、急にこんなに彼女の心境に変化があったのか、今の僕にはまだわからなかった。

ーーー大丈夫。バーボンなら信じてもいいんじゃないか?
ーーーあなたがそういうなら……

頭を撫でられた女。その髪を愛おしそうに目を細めながら梳くその男は、まだ、この事をバーボンに伝えることができない。
月明かりが2人のシルエットを浮かびあげ、秋にふさわしい肌寒い風がなびいた。

「わかったわ。スコッチ」



短編「ずるくうるわしいものですよ」
title by 金星
2016.10.24

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