金色の粉じゃ飛べない

「ちょっと、ジン…!まさか本当に…」
「疑わしきは罰する…それが俺のやり方だ」

目の前でバーボンとキールが殺される。そんなことはそこにいた誰もがわかりきっていることだった。
絶体絶命とはまさにこのことで、彼がジンにノックだと疑われている以上、それはもう誰にどうすることもできない。

「5…4……」

ウォッカのカウントと共に、バーボンの額に流れる汗の量も増えていく。ただその姿を見つめることしかできない私。そして隣のベルモット。見るに見れないその状況で目を閉じれば、きっと次は私がジンに殺される。キールの肩から滲む血液が、さらにリアルに、彼らへと迫り来る死を感じさせた。

「3……2……1……」
「っ、」

初めてみる、バーボンの全てを諦めきったような表情。座り込んでうつむくその姿は、きっと一生私の脳裏から離れない。
もう、誰でもいい。頭のいいあの小さな少年でも、組織を裏切ったライでも、警察でも誰でもいい。なんでもするから、だから…だから、彼を…。
目を瞑ってグッと手を握る。彼の中の恐怖の方が絶対大きいはずなのに、ただバーボンに想いを寄せるだけの自分も、酷く酷く彼の死に怯えている。

「……0…」
「まずはお前だ、バーボン」

ジンがバーボンに銃口を向けた。何もできずにこのまま彼を死なすよりはマシだと思い、身体が勝手に動こうとしたその時、私の後方から微かにカサリ、という機械音が聞こえて小さく振り返る。それと同時に、ジンの上にあった電気がネジと共に降り注いできて、そこにいた全員の視界が一気に暗闇に奪われた。

「バーボン!キール!」

ジンの怒鳴り声が倉庫内に響く。ベルモットが持っていたスマートフォンのライトであたりを照らしてみれば、そこに手錠で繋がれていたはずのバーボンの姿がなかった。バンッと開いた裏口から、ウォッカが彼を追っていく。私にはその先にいるのが彼ではなく、2人を助けたあの裏切り者だということがわかっていた。

「バーボンとキールは後回しだ。東都水族館に向かう」

ジンがそう告げ、ウォッカとベルモットを連れて倉庫を出て行く。あのポルシェの、独特のエンジン音が遠のいたのを耳で確認して、私はそっとキールへと駆け寄った。

「キール……ごめん…」
「っ、大丈夫よ名前。貴方は自分の心配をして」
「あとで必ず迎えにくるから、もう少し待ってて」

キールの肩口にハンカチを当て、そっとその場から立ち上がる。私も早く、ベルモットたちと合流しなくてはならない。物陰に置いておいた荷物を持って、裏口から出ようとすれば、隠れていたであろうあの人がドアの前に立ち止まって、私を見つめていた。

「名前…」
「どうせ止めても、行くんでしょう?」
「君はここに残るんだ」
「…あなたにそんなこと、言われる筋合いはないわ」

バレてはいけない。彼への想いは、私の中に止めなくてはならない。わかっているけど、あの緊迫した状況の中、彼を失うと確信していた私の精神状態からして、今、バーボンと話を交えることができているという現実が夢のように感じてたまらない。涙は、とどまることを知らないとでもいうかのように私の頬から顎へと伝った。

「…もし生きて帰ることができたら、君に伝えたいことがあるんだ」
「っ、バー、ボン…」
「だから名前、」

バーボンが1歩、そしてまた1歩私へと距離を縮める。

「必ず、無事でいて。僕も絶対、君のところに戻ってくるから」

歪んだ視界の中、バーボンが私に優しく微笑みかけているような気がした。だから私も、彼に向かって不器用に、くしゃりと笑ってみせた。



短編「金色の粉じゃ飛べない」
title by 金星
2016.10.07

BACK

×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -