カレーライスな彼女


「てめェ部屋来いっつっただろうが」
「用があんならそっちから来なさいっての」
「船長命令もきけねェのか」
「命令しなきゃ自分の女も呼べない男なんてダッサ」

 毎日よく飽きないものだと皆思う。遠巻きで見ている分には「またか」と言う程度で済み、者によってはちょうどいいBGMらしい。風邪でもひけば静かになりそうだが、あいにくその見込みは両者ともゼロだ。
 かといって船内の至る所でひっつかれても困る。ナマエはまァいいとしても、誰もキッドのそんなところを見たがらない。そこはふたりだけの秘密と言うところにしてもらいたいのだが、どうしてか昼間は上手くいかないらしい。

「たまには素直にキッドの言うことを聞いてやれ」

 逃げ出してきたナマエにこう言ってやるのは、もう数えたくもないほどの回数になる。

「ヤダ」
「どうしてだ」
「なんか負けたみたいでムカつく」

 不貞腐れたこいつには、頭を撫でてやるのが一番の不機嫌解消法だ。猫のように目を細めて、垂れ下がった口角が緩やかに上向く。キッドがやっても同じ効果を生んでくれるのが一番だが、馬鹿にされているようで嫌だと言っていた。どうにもナマエはキッドに張り合う癖があるらしい。

「張り合ってばかりでは可愛くないぞ」
「……いいもん」

 困った奴だと苦笑いをこぼすおれに、ナマエはまた頭を撫でてくれとせがむ。相当お気に入りのようだ。どうせならキッドに甘えて欲しいんだがな。おれ達の見えない所で。

「てめェ毎回毎回キラーに逃げんじゃねェよ」
「うっさい、ちょっとあっち行ってよ」
「おれの船だおれがどこ行こうがおれの自由なんだよ」
「いくら私が好きだからってストーカーやめてよね」
「んだと」
「キッド」

 ふたりともおれを挟んでの会話が得意のようだ。挟むと言っても透明な壁扱いだろうが。

「ナマエはあとでそっちに行かせるから、部屋に戻れ」
「私行かない」
「言うことを聞かないならもう匿ってやらないぞ。キッドもわかったら行け」
「……チッ」

 キッドは怒りの矛先を床に変えて荒々しく足音を立てて行った。お前がもう少し優しく誘ってやればこんなことにはならないんだと、言ったところで実行できる正直者ではないか。

「キッドはあんなんだから、お前が折れてやらないとな」
「たまにはキッドが折れても良いと思う!!」
「そういう奴じゃないのはお前が一番知っているだろう」

 頑固者同士でもいままで続いてきたのは、なんだかんだと最後にはキッドを立ててナマエが折れてきたからだ。あいつはそこに甘え過ぎだが、愛情表現が不器用なだけだとナマエは知っている。

「…………頭撫でて」
「しょうがないな」

 また揉めてくれるなよと、右手に願いをこめた。


2011.0313
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