ロールケーキな彼女
どうも皆さんお久しぶりです。ハートの海賊団のペンギンです。えーこのお話は「おれ達どんな船長でも…!」の番外みたいなもんで、船長はアレだからあんまり肩に力を入れずに聞いてもらえれば……ってそんな説明はいらない? ああうんそうだよね、うん。
ほんとは船長がやるべきなのに何この仕打ち。でも船長アレだからな。暴走するとおれ達の身の危険があるから……うん、仕方ない。がんばろ。
じゃあ今日おれが果たした使命について話すから、聞いてください。お願いします。
*
「ロールケーキだな」
たっぷりの間のあとに船長は答えた。「いいか、生地はふわっふわだ。巷で流行っているようなひと巻きでクリームたっぷりなやつじゃなく、ふた巻きほどされていてその間にしっかりとクリームが詰まり、芯は赤々としたいちごでできてるやつだぞ」と、いらない情報まで付け加えて。
ロールケーキについて熱く語る船長はたぶんこれが初めて。けっして船長の好物の話ではないんだけど……いや、まァある意味好物なんだけどさ。
「なになに? 船長今日のおやつはロールケーキなの?」
ああナマエ、どうして君はいっつもいっつもあんまり来て欲しくないタイミングでベポと仲良く現れてくれるんだ。降りなさい。いや降りてください、ベポの背中から。
「なんだナマエベポにおんぶしてもらってるのか。ベポ、おれが代わってやる」
「ベポがいーの」
「なっ!」
「船長ベポよりちっちゃいし」
あ、船長が崩れた。ナイスナマエ!
では話の続きを。
おれが船長に聞いたのは「ナマエを食べ物にたとえたら何」という質問。危ない回答しか返ってこないのになんでそんなこと聞いたのかって? たまにこうして愛を語らせる方がナマエへのセクハラが減って結果おれ達の負担も減るからだよ。でもひとつ言っとくと……聞く方はかなりダメージを受けるんだ。精神的に。
「おれのほうがデカいことを証明してやる」
あ、船長が立った。でもあれ、なんか話の方向まずくない? まずいよね、まずいよね確実に!
「あ、あー船長」
「黙れペンギン、バラすぞ」
「理不尽! でもこの際どーでもいい! それよりも、なんでロールケーキなのか理由をまだ聞いてないんで」
「……なんだお前そんなに聞きたかったのか。しょうがねェなァ」
危険回避! おれ無事! 船長単純で良かった!
「まずいちごだ。この芯は重要だ。大ぶりでもなく小ぶりでもないサイズで、瑞々しく熟れたいちごはナマエそのものだろう。甘酸っぱさも『ただ甘いだけのつまらない女じゃないんです!』といったところだな」
いや、甘酸っぱいって言うよりもかなりぼけた感じだと思います。うん、言えないね。
「次にクリームだな。これは濃厚でいて甘さは控えめ。いいか、この甘さ控えめがポイントだ。甘すぎては濃厚なクリームで胃もたれを起こすが、甘さを抑えることで飽きなくいくらでも食べられるようになる」
「いや、それなら濃厚なクリームじゃない方が」
「お前は馬鹿か。妙にカロリーを意識して低脂肪生クリームを使ってみろ、味にコクもなく食べてガッカリするぞ。ナマエがそんな女だって言いたいのか」
「いや別に……あ、じゃあ最後に生地について」
「ロールケーキと言えばふわふわだ。それはなにが表現しているかって生地以外の何物でもねェ。あの生地の白さ、そして柔らかさ。ナマエの肌とおんなじ」
「あんたいっつもそんなこと考えてんのか!」
「てめェが聞いてきたから仕方なく答えてやってんだろうが!」
いや、うん、まぁね。質問した時からだいたいわかってたよね、この流れ。聞いたおれがいけなかったよね。でもつっこまずにはいられなかったというか、最近染みついた癖というかさ。
「だが、どうせならおれが生地になり」
「はい! もう結構ですーありがとうございましたー」
もう二度と船長にロールケーキは出さん。危険すぎる。
「お話終わった? ペンギン、おやつはいちごのロールケーキなの?」
「え……いや、それはない。絶対ない」
「えー、ロールケーキ食べたかったなァ」
「そんなに食べたいならおれと作るか」
「え」
「船長作れるの?」
「もちろんだ。おれとお前がいれば完成だ」
「そーなの?」
「ダメ、却下、絶対ダメ!」
誰かこの子に警戒心ってものを植え付けて欲しい本気で。
「ペンギンも一緒に作ろうよー」
「ペンギン邪魔すんな」
「ペンギンーおれもロールケーキ食べたい」
あれ、もしかしてそれっておれの役目か?
「ねーペンギンってばー」
「バラすぞペンギン」
「ロールケーキー」
おれ、なんであんなこと聞いちゃったんだろ……
*
と、言う話。つまんなかったとか言わないで! おれだって誰かに話さないとやってけないんだから!
あ、けっきょくナマエとベポに泣きつかれてコックに頼んでロールケーキを作ってもらったんだけどさ、当分食べたくないよ。うん。これトラウマになんなきゃいいな。
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2011.0302