3ヶ月と言ったら
最近どうも身体が重い。だるい。今朝は吐き気も酷かった。
と言うか昨日は女子としてあるまじき醜態をキャプテンの前で晒してしまった。あれがペンギンとかなら良かったのによりにもよってキャプテンの目の前で私は……ああもう私お嫁に行けないキャプテンに嫌われたに違いないわ。いいえ、そんなことないわよナマエ。キャプテンはどこぞの凶悪面な海賊と違って心が広いわ。お医者さんだしあんなもの見慣れてるわよ。ああキャプテンの愛を疑うなんて私ってばひどい女。ごめんなさいキャプテン。でももう疑ったりしないわ。そうよ、キャプテンと私の間柄だもの、キャプテンならどんな私も愛してくれるに決まってるじゃない!!!
「愛してねェよ」
「あ、キャプテン。やだもう照れないで」
キャッ、と愛らしく私も照れて見せたのにキャプテンたら「気持ち悪い」の一言。ああでもそれが「可愛いなこいつ」っていう意味だって私わかってる。キャプテンは意外にも照れ屋さんなのね。あ、今知ったわけじゃないわ。ちゃんとわかってたんだから誤解しないで。
「誤解してるのはお前だ」
「もう本当に照れ屋さん」
「ああ間違った。誤解じゃないな、捏造か」
「え、熱愛?」
「耳やられたか」
「まァ大変! キャプテン診て私を見て」
「…………」
盛大に溜息をつくキャプテンも素敵。顔はね「どうしようもねェなこいつ」って言ってるけど、それは「おれがいてやらなきゃ駄目だな、しょうがねェ」っていう意味なの私わかってる。そうなの、私キャプテンがいないと駄目なの。さすがキャプテン私のことよくわかってるわ。それもそうよね、だってこんなにも相思相愛なんだもの。
「ベポが」
「ん、ベポ?」
「お前の調子が悪そうだから診てくれと言うからきてみれば、体調じゃなくて頭ん中だな。おれにはどうにもできねェ」
「キャプテン私の頭の中覗いたの? やだ恥ずかしい。キャプテンへの愛で溢れていたでしょう?」
「もういい」
「でも体調悪かったのは本当」
部屋から出ようとしたキャプテンに体調が悪いと言えば、怪訝な顔をしながら「どこがだ」と訊いてくる。眉間に寄っている皺も私を心配してできたもの。キャプテンの優しさに私の胸はキュンと痛みを告げるの。ああそうだわ私もうずっと前から体調が悪いの。恋煩いって重病だわ。「それもおれにはどうにもできねェな」
「キャプテンにしか治せないわ! いいえ、キャプテンがいる限り治らないわ!」
「そうか、じゃあお前を船から降ろす」
「朝から吐き気がするの。最近身体もだるいし」
「……最初から言え」
熱はないかとおでこに触れるキャプテンの手がひんやりとして気持ちいい。ああ、今のできっと高熱が出たわ。
「熱はねェな」
「でも吐き気がするの。昨日もキャプテンの前で私……キャプテンこんな私でもお嫁に……!! ああなんで私気付かなかったのかしら」
「……」
「キャプテン、私わかったわ」
「頭の異常がか?」
「私妊娠したのよ、体調不良もつわりのせいだわ。きっともう3か月よ。ああもう3か月もキャプテンの子どもに気づかなかったなんて自分が信じられない」
「お前の頭が信じられねェ」
「そうよね、いきなり言われてもキャプテンも混乱するわよね。でもね、ここにしっかりとあなたと私の子どもがいるのよ」
そっと新しい命を宿したお腹にキャプテンの手をのせる。ああもう本当にどうして気付かなかったのかしら。最近体重が増えたのもそのせいだったのね。これが幸せの重みっていうものなのね。
「ナマエ」
「なあにあなた」
あなたっていい響き。ああでもキャプテンならダーリンかしら。うふふふ。
「安心しろ」
「ええ、私立派な母親になるわ」
「それは妊娠じゃねェ。おれはお前に手を出した覚えも出された覚えもない」
「そんなこと無いわ。きっと酔った勢いとか」
「それこそありえねェ」
「じゃあなんだっていうの?」
キャプテンひどいわ。現実を受け入れられないのもわかるけど、こういう時はパートナー同士思いやることが大切なのよ。第一私がキャプテン以外の男と寝るわけないじゃない。それこそありえないわ!!
「日常的な過度の飲酒、それも深夜から明け方にかけて。睡眠も足りなくなるし、大量のつまみも一緒に食べてりゃ吐き気も起こるだろう。加えて最近は戦闘もねェし鍛錬も怠けていて運動不足。体重が増えるのは当然だ。それから」
「……それから?」
「お前先週生理きたばっかだろ」
「っ!!!!」
「痛み止めやったのはおれだ」
「そんなこともあったような……」
「お前、明日からベポに徹底的にしごいてもらえ。あと禁酒だ」
「そんなっ!!」
「嫌なら今すぐ船から降ろす」
妊娠じゃなかったなんてショック、信じられないわ。しかもベポの特訓て凄くきついしお酒も飲めないなんて……。ああでもこれは試練なのよ。キャプテンが私に与えた恋の試練。これを乗り越えたら私たち2人どんな困難も逆境も乗り越えていけるのね。
「キャプテン私頑張るわ!!」
待っていてねベイビー。あなたを本当にこのお腹に宿す日もそう遠くはないわ。
「……やっぱり今すぐ降ろすか」
2010.1202