本当は両想いなエース君
「やっぱ胸はデカい方が良いって」
「おれあんまデカいの嫌だなー。やっぱ性格良くなきゃムリだろ」
「確かに。あ、あとあんま化粧濃いとな……スッピン見たら冷めそう」
「なに言ってんだお前、んなもん慣れるんだって」
放課後の教室は帰宅部にとっての喋り場。と言っても今この教室にいるのは窓際で固まっている男子3人と、私だけ。
元々帰宅部なんて少ないし、みんな塾だバイトだデートだで早々に帰ってしまう。いや、帰宅部だから帰って当然なんだけど。だから、こうやって教室に残るのは本当に暇、と言うか、予定のない人だけ。私は今日部活が休みなだけでたまたま捕まって今に至るのだ。
うん、正直居辛い。いや、まァ参考になると言えばなるのかもしれないけれど……女子の前で堂々と胸の話とかするかな。それとも嫌味か当てつけか。
「○○ー。○○は?」
「え、なにが」
「いやだから、○○の男のタイプ。おれらも女子の意見て参考にしたいし」
「そーそー。つか○○の好きなやつ教えてくれても良いんだけどな」
私の意見なんて参考にならないんじゃないかな。と言うか私は巻き込まれたわけで、なんで好きな人を教えなければいけないんだ。
「マジ、○○好きなヤツいんの」
「え」
「だれだれ? うちのクラス?」
女子並みの食いつきにちょっとビックリ。絶対言ってなるものか。言えば明日からネタにされるに違いないと、固く口を閉じた。
はずだったのに、はずだったのに。
じっと見られるのは耐えられないんだよ!
「…………カッコイイ人」
「それじゃわかんねーよ」
二人して突っ込むな、わからなくて良いんだよ。わからなくて良いし、カッコイイとしか言えないんだからしょうがないではないか。カッコイイ以外にどんな表現方法があると言うんだ。そもそも、本人を目の前にして言えると思うな!!
「他にねェの?」
「え」
「いやだから、カッコイイのほかに」
だからカッコイイのほかには何もないんだって。と言うか本人が聞くかなそれ。と言うか本人に聞かれる時点であれですか、失恋ですか。いやそうだよね、エースは知らないんだもんしょうがないよね。と言うか顔近っ。
「……ない」
「…………そ」
「○○顔赤っ! なになに、愛しの彼思い浮かべちゃってんの?」
黙れ白石。本人目の前にして告白紛いのことをしたんだから当然じゃないか。しかもそれで失恋確定だなんて……ほっといてくれ。エースもそんな無言で見るのやめて。視線に耐えられない、色んな意味で。
「そーだ、エースお前は?」
「……」
「エース?」
「あ、なんだ?」
「なんだじゃねーって。お前のタイプ。聞いたことねーよな」
遠藤お前ってやつは、そんなに人の傷口に塩を塗りたくりたいか。君のその質問は私の今後を決めるんだぞ。主に再起不能になるか自棄糞になるかだ。そんなことこれっぽっちもわかってないだろうな。
「おれ? おれはそーだなー」
「エースの場合料理上手くねェとムリだろ」
「おー、料理上手いと良いよなー」
なんということだ遠藤。私の家庭科の成績は上中下で言えば下だ。詳しい数字は伏せさせていただきたい。
「おー、じゃあ○○の線は消えたな。残念だったな―○○」
「ハハ、ソウデスネー」
「しょうがねぇよな、お前料理壊滅的だからなー」
「…………」
くそ、なんで知ってるんだ。しかもエースの視線が痛い。どうせ私は目玉焼きぐらいしか作れないさ。もうこれは傷口に塩どころじゃない、唐辛子とか山葵とかいろいろ塗りたくられた感じだ。もう帰ったら泣こう。物凄く悲しい曲をガンガンにかけて布団に包まって泣こう。そうしよう。
「じゃあ、私帰るわ」
「おー。帰って料理の腕磨いてこい!」
「うるさいわ! 遠藤お前の好きな人バラしてやる!」
「おま、止めろよ絶対!」
「知るか!」
「○○ー、また明日なー」
(……やっぱ、カレーライスぐらい作れなきゃだめかな)
(おれの為に作ってくれんならどんなんでも良いんだけどな。つーかカッコイイって誰だよ)
2010.1109