となりのキミはとなりのヤツがスキ/エース君の場合


 窓際一番後ろの席。窓の外を見ると不思議と眠気を誘われる席。
 実は教師からも良く見えて、居眠りが絶対バレる席。
 その席で朝練後の授業とか昼飯後の授業は睡魔との闘いだけど、おれはちゃんと起きている。だって、一瞬でも眠るのがもったいないと思うから――

 ほんのり茶色がかったショートヘアー。授業中だけに晒される、薄いピンクのメガネをかけた横顔。メガネに隠される自然のままにカールした睫毛。低くも高くもない鼻。キュッと締められた、リップクリームだけ塗られた唇。さらさらとノートの上を走るおれよりも細い指。トントントンと左の人差し指が机を叩くのは考え込む時の仕草。右手の人差し指はあの唇に咥えられて――

 って、おれは変態か。
 毎時間毎時間、おれが外の景色にも太陽の誘惑にも負けないのは、右隣の席に座る○○を見ているからだ。こんなにおれが見つめてても――って言うのもちょっと気持ち悪いけど――○○は気付いてない。授業中に一度も目が合ったことがないのが証拠だ。

 ずっと見てると、些細な変化にも気付く。
 ○○のさらに右隣に、遠藤ってヤツが座ってる。あいつが教師に指されると、○○がピクッて動くんだ。おれとは違って少しだけ頭を右に向けるんだ。それはもう条件反射みたいにさ。それで、そいつが答え終わるとまた前を向く。

 遠藤が好きなのか。

 それは確信だった。おれの知らない○○の事を知れるのは嬉しかった。でも、これだけは悔しかった。おれだって隣の席なのに。
 ……悔しい。
 おれは筆箱からシャーペンを取り出して、真っ白なノートの隅っこに文字を埋めた。それをビリリと破って、右手の中に隠す。

 コツコツと小さく机を叩けば、どうしたの? っていう顔をして○○が小さくおれに向いてくれた。手のひらを返して、隠していたものを渡す。伝えたのはたった八文字。○○はビクッとしてもう一度おれに顔を向けた。こんな顔初めて見るな……なんて思ってたらすぐに前を向いちゃって、紙切れも筆箱にしまって、この時間はそれきりだった。
 おれは気まずくもないし、そのまま○○の事見てたけど。



「……さっきの、誰にも言わないでね」

 チャイムが鳴るとすぐに○○に話しかけられた。まだメガネかけたままだ。眉が少し下がってて、そんな顔も可愛いなって思った。さっきのとは当然、授業中おれが渡した紙切れのこと。

「言う理由がねェよ」

 口に出したら、きっと悔しさで泣きたくなる。

「ありがと。……でも、よくわかったね」

 当然だろ。

「お前があいつの事見るよりも前から、ずっと○○の事見てたし」

 授業中の時みたいに、すごく驚いた顔。やっぱり気付いてなかったんだな。わかってたけど、ちょっとショックだ。

「おれ、○○のこと好きだから」

 どんなにつまらなくてわからない授業でも、睡魔になんか絶対負けない。落ちた一瞬が惜しいから。一瞬だってキミから目を離したりしない。でも気付かれないままなんてつまらないから、キミの視線を誰かに奪われるのが嫌だから。決めた――

「おれの方向きたくなるようにさせてやるから、覚悟しとけよ」





2010.0907
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