失恋した幼なじみを慰めるエース君


 五日間の授業と言う苦痛から解放された土曜日。
 雲ひとつない青空、太陽がまぶしい今日はまさに……

「絶好のバイキング日和だ!!」

 意味がわからない、と渋る××をちょっと強引に自転車の荷台に乗っけた。
 行き先は高級ホテル。自転車で二十分あれば余裕だ。坂も無いし昼飯前のいい運動ってとこかな。
 土日に開かれるランチバイキングは盛況で、出遅れると一時間待つなんてざら。待たされるのはご免だから、いつもならまだ寝てる時間にせっせと自転車を漕いでいる。

「エース、私お財布持ってないよ」
「あ―気にすんな、おれがおごってやっから」

 高級ホテルって言っても、バイキングは高校生の小遣いで行けるぐらいの値段だからな。もともと××に払わせる気もなかったけど。
 あ、やべ……信号無視した。

「どーしたのさ。エースが誘って、しかもおごりなんて」
「あ―……ここんところ、お前元気なかっただろ。それで」
「いっぱい食べて元気出せって?」
「おう」

 腹いっぱいになると、うだうだ考えるのやめるかって気にもなるし。おれはそんなに考えたりしねェけど。

「なんでかって、知ってんでしょ?」
「……まー、な」

 学校内の出来事は情報の広まりが早い。
 ××も、××と付き合ってた先輩も目立ってたわけじゃないけど、そういう話だったからな。いつもならその手の話題は気にしねェけど。話を聞いて、最近様子が変だったのはこれか、って納得した。
 背中にとん、と重みがかかった。××の頭だ。
 細く息を吐いて、愚痴ってきた。

「エースに心配されるようじゃ、私もまだまだだねー」
「どういう意味だよ」
「あんたにしちゃ上出来だって言ってんの」

 なんか失礼なこと言われてないかおれ。ちょっともやもやしたけど、目的地に着いたらどうでもよくなった。飯がおれを待っている!
 自転車の置き場にはちょっと困った。

 ホテルに入ると左側にレストランがあって、家族連れですでに賑わってた。
 受付まで行くと、ビシッとスーツで決め込んだ貫禄のある男に席まで案内された。

「よし。××、こっからは戦場だからな」

 おれはそれだけ言って料理まで一直線に歩いた。やっぱりローストビーフは外せねェよな! さっき位置は確認済みだ。
 両手の皿が山盛りになったところで席に戻ると、もう××は食べ始めてた。おれはもう一回取りに行こうとしたけど、××に今取ってきたのを食べ終わってからにしろって言われて、しょうがなく座った。

「なにその肉の量」
「バイキングはどんだけ食べても良いって言うルールだろ?」
「いや……ちょっとは遠慮しなよ」
「いやだ」

 おれはローストビーフの山にフォークを刺して、口に入れた。
 一口めからうまい、予想以上だ。あとでまた取りに行かなきゃな。

「××だってケーキと果物ばっかじゃねェか」
「バイキングは好きなものを心行くまで食べるもんでしょ」
「おれとかわんねェじゃん」
「そう?」

 ××は小さいケーキをフォークでさらに小さく切って口に運ぶ。「おいしい」って、おれに言ったわけじゃないけど、聞こえた。おれを無視して平らげていくケーキが、すごくうまそうに見えた。
 3回目、皿にケーキを敷き詰めて戻ったら笑われた。××の前には、見栄えを考えて並べられたケーキが乗った2回目の皿があった。おれは自分の皿から、××が好きなチョコ系のケーキを空いている所に詰めてやった。


「食べ過ぎた―」
「おれはまだたんねー」
「あれ以上食べたらホテル出禁になるよ」
「それは困るな!」

 おれは野菜以外の料理をほとんど制覇した。××はケーキと果物を制覇してた。
 あと一周はしても良かったけど、待ってる人が多くなったから仕方なくレストランを出た。

「エース、今日はごちそうさまでした」
「おう」

 ほんの少し軽くなった財布と、ほんの少し重くなったペダル。
 幼なじみの笑顔でプラスマイナスゼロ。ってな。

2010.0901
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