ぼくはパパが嫌いだ。
「パパだあ?オヤジと呼べ、このアホンダラ」
ぱ、お、オヤジは、いつも大きな手でぼくの頭をわしゃわしゃする。ぼくの髪はぼさぼさになって、お、オヤジがそれを笑う。よーちえんの子達とおんなじだ。
それから、ぼくに「アホンダラ」という。アホンダラって、バカってことだ。バカって、嫌いってことだって、だれか言ってた。だから、オヤジはぼくのことが嫌いなんだ。だから、ぼくもオヤジが嫌いだ。
「お父さんも、ママと同じくらいマルコのこと大好きよ」
ママはいつもそういうけど、それはきっとウソだ。だって、エースにもママにも「アホンダラ」って言わないもん。ぼくだけだ。
「おい××、」
「もう今日はこれ以上飲んじゃダメです」
「かてェこと言うなよ」
オヤジはいっつもお酒を飲む。たくさん飲む。ママがダメって言っても飲む。ママはいっつもオヤジを心配してるのに、ママの言うことをしらんぷりして、今日もテーブルのうえが缶でいっぱいになった。
「ママの言うこと、きかないとダメ、よい!」
「あん?ああ、マルコは××が大好きだからなァ。くく、母親思いのガキに育ったもんだ」
「あっ!」
オヤジは笑ってお酒を飲む。お酒を飲んで、ママにちゅうをした。ほっぺじゃないところ。ぼくは頭があっつくなって、すごく嫌な気もちになった。
「ママからはなれろ!バカ!」
「おいマルコ、親にむかって馬鹿とはなんだ」
「ったいよい」
オヤジはぼくにゲンコツをした。たんこぶができそうなぐらいに痛い。
オヤジは絵本の中の鬼みたいな顔をしてぼくを見ていた。ぼくは頭じゃなくて心臓のあたりがすごく痛くて、涙がでそうになった。オヤジはやっぱりぼくのことが嫌いなんだ。
「オヤジなんか、大っ嫌いだよい!」
床に落ちた缶を拾ってオヤジに投げた。でもすぐに床に落ちて、オヤジには当たらなかった。
「マルコ」
オヤジがぼくを呼んだ。ぼくはオヤジの顔を見たくなくて、お布団まで走った。
「マルコ」
呼んだのはママだった。
ママはいつもオヤジの心配をしてるけど、オヤジと話してるときのママはすごく楽しそうだ。ママはぼくもエースも大好きだって言ったけど、きっとオヤジのほうがもっともっと大好きなんだ。
「お父さんに『バカ』って言っちゃダメよ」
ほら。やっぱり。
オヤジはぼくのことが嫌いで、ママのことが大好き。
ママもオヤジのことが大好き。ぼくのことよりずっと。
だから、ぼくはオヤジが嫌いだ。ごめんなさいなんて、絶対に言わない。
2011.1126