となりのキミはとなりのヤツがスキ/ロー君の場合


「○○、お前にイイコトを教えてやる」

 今は朝の掃除の時間だ。
 今日珍しく早起きだったおれは、テレビ番組の当たるかもわからない占いコーナーを見た。結果はパッとしなかったが「好きな子に親切にするとラブ運アップ」と出ていた。別に信じたわけじゃないが、親切にして悪いことはないなと、忘れないうちに実行に移そうとして今に至る。
 案の定イイコトに反応して、○○はせっせと床を掃いていた手を止め、期待に満ちた目をおれに向けた。

「なになに?」
「もっと耳を近づけろ、周りに聞こえるだろうが」

 おれはさり気なくこいつの耳にかかる髪を掻き上げて、露わになった耳に囁いた。

「遠藤な、白井が好きらしいぜ」
「……」
「本人から聞いたんだ、嘘じゃねェ」

 ○○は難しい顔をして再び床を掃き始めた。同じ所ばかり掃いていて掃除と言えるかは疑問だ。



 朝のホームルーム突入と同時に、隣席の遠藤を盗み見し始めるのが○○の日課だ。しかし今日はホームルームが終わり、そのまま一限目に突入してもその顔は掃除の時間のまま固まっていて、一瞬たりとも遠藤に視線が向けられることはなかった。
 この調子なら今日一日は遠藤を見ることはないだろう。なんせ、遠藤の隣があの白井だからな。おかげ様でおれは○○の横顔を見放題というわけだ。

「ローどうしよ!! 白井さんて顔ちっちゃいし可愛いし勝ち目ないよォ。振られたも同然だよー」
「二人が付き合ってるわけじゃねェだろ。そんなに落ち込むな」
「落ち込むに決まってるじゃん! って言うか、全然イイコトじゃないんだけど!」

 1限後の休み時間。
 ○○は机に突っ伏したままで嘆いてきた。うっすらと涙目になっているようにも見えて、思わず手を伸ばしかけた。○○の後ろで仲良さ気に話している遠藤と白井も見える。今この状況が楽しくないのは、こいつだけだな。

「好きなヤツがいたら諦める。その程度か? お前は」
「ム……違うけどさァ。白井さんも遠藤に気がありそうって言うか……」
「だったらもっとアピールしてみろ」
「どうやって?」
「利用できるものは利用する」

 それではわからない、と言われたので、それ以上は有料だと返してやれば冷たいだのけちだの。何言ってんだ、十分親切だろ。



「先生。よく考えた結果浮かびませんでした」

 3限後の休み時間。
 挙手をして授業2つ丸々潰して考え抜いた結果を告げられた。おれは先生じゃねェ。が、……そう呼ばれるのは悪くないな。まあそれはいい。確かにうんうんと悩んでいたとは思うが、途中寝てたようにも見えたんだがな。証拠に涎の跡がついている。

「席がとなりなんだ、話しかけるとかあるだろ。会話がまともにできなくてアピールなんてできると思うな」
「だって緊張するし! 見てるだけで幸せだし!」

 勢いよく起き上った上半身。その顔には「そんなことできません!」と力強く書かれていた。

「お前なァ……」

 おれは○○と向き合うように座り直した。

 となりの席っていうのは、悩ましい表情も、胸が締め付けられるほどの笑顔も、あくびを噛みしめる顔も、愛らしい寝顔も、問題を当てられた時の嫌そうな顔も見れるし、話しかけなくても自然と声は耳に入ってくる。

「最高のポジションだろ」
「ローよくわかってる! でもだからこそ見てるだけでも幸せなんじゃん」
「相手が他のヤツを見てて、その表情も他のヤツに向けられてるとか、聞こえてきた声は自分に向けられたものじゃないとか、つまんねェだろ。全部自分に向けたいって思わないのか」
「……考えたことない。ローはそんな風に思ってるんだ?」
「お前と違ってな」
「ひどいな。って言うかローにも好きな子がいたんだね」

 にもってなんだにもって。お前の方がひどいだろ。だいたいとなりの席の話をしてるんだ。おれのとなりはお前か左のヤツだけだと言うのに。

「相談相手に選ばれたのはラッキーだったが、他の男が絡んでるのは気にいらねェな。お前の悩んだり葛藤したり泣きそうだったり照れている顔も、アホみたいに喜びを表現してる顔も全部イイ。が、それに関係してるのは全部おれじゃないと気にいらねェんだよ。寝顔も一切遠藤に向けんな。あの間抜け面を愛せるのはおれしかいねェ。お前はあいつに話しかけれないままでいいんだ。おれとだけ話してればいいんだからな」
「…………ん?」

 クエスチョンマークが頭上を飛び交っているのが見えるな。ああ、その鈍感なところもイイんだ。他の野郎もそんなことを言ってた時はイラっとしたが。安心しろ、これから一つ一つその疑問を解決してやろう。

「理解は、できてないな?」
「いや、……うん?」
「お前が好きだ。って言ってんだよ」
「んん!?」
「落ち着け。理解力に乏しく超がついてもいいほど鈍感なお前の為に、4限丸々潰していろいろ教えてやるから」

 ○○の腕をひっつかんで、席を立つ。
 好きだという言葉でようやく理解し始めたのか、いやいやいや……と○○の顔は徐々に赤みを帯びていく。ああ、その顔は最高だ。だがおれ以外の野郎に見えるのはいただけない。
 おれは○○の腕をひっつかんだまま、さっさと教室を抜けた。歩きだす拍子に○○がとなりの机にぶつかったみたいだが、誰の机だったかもう忘れた。
 さて、じっくり時間を掛けて教えてやるには、こいつが途中で逃げ出さない場所に移動しなくちゃいけねェな。

 空き教室と屋上なら、どっちがお望みだ?





2010.1001
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テーマ「人外ファンタジー」
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