失恋した幼なじみを慰めるロー君


「……またか」

 おれの部屋であ゛ーだとかう゛ーだとか、あ行に濁点を付けて泣き続けるこいつを何度見てきたことか。
 昔は可愛げがあった、ような気がする。何でもない所で転んで擦りむいたとか、おばけの夢を見たとか、大事に育てたミニトマトをカラスに食われたとか。理由が可愛かった。泣き顔はしわくちゃで、まァ見てて飽きはしない。だが最近の理由はもっぱら色恋沙汰だ。しかもこいつが失恋した時。色気も可愛げもねェ。

「毎回毎回泣いてんじゃねェよ」
「だっ、がなしいとぎは、な゛げっで、いっだじゃん」

 そんなことも言ったか。
 確か小学校で飼ってたウサギが死んだ時のことだ。泣き虫のこいつが血が出るぞってぐらい唇を噛んで、泣くのを我慢してたから。ったく、都合のいいことばっかり覚えていやがって。

「で、3組の林だったか? 今度は何て言われたんだ」
「…………よんぐみの、しら、いざんに、こぐはぐざれだって」
「それで、そっちと付き合うからって別れたのか」
「……」
「…馬鹿か。そんなやつとっとと忘れろ」
「う゛ぅ〜〜〜〜」

 こいつは、××は相手が他に好きな人ができたとか、今回みたいに告白されて新しい彼女ができたとかで振られるパターンばっかりだ。しかも、自分が告白したんじゃなく、告白されて付き合った相手にだ。こいつにはおれ以外の男運が無いんじゃねェかと、本気で思う。おい、ティッシュを使いすぎだ。枕カバーも濡れて使い物にならねェだろ。

「××、顔上げろ。上げねェとスカート捲るぞ」
「……」
「ほら、泣き止め」

 こいつが泣く時のパターンは昔っから変わらない。
 まず絶対におれの部屋に来る。おれが帰ってなくてもお構いなしに上がり込んで、ベッドを占領する。すると何の合図か泣き始める。ほどほどに泣かせて、こいつのお気に入りの白クマのぬいぐるみを貸してやって、やっと泣き止むんだ。
 泣きながらギャーギャー愚痴をこぼさねぇのはお人好しっつうか、こいつのイイとこだけどな。

「……ロー」
「なんだ」
「やっぱり、このぬいぐるみローの部屋には合わないね」
「泣き止んだ途端それか」

 まァ確かに不釣り合いだ。
 ガキの頃に××が家族で北海道旅行に行った時、可愛いからと土産として買ってきたのがこのぬいぐるみだ。当時からおれの部屋にはファンシーすぎたが、いつだったかあまりにも泣き止まねェから、これを顔に押し付けた。そしたらピタッと泣き止んで、こいつとはそれ以来の付き合いだ。

「何度か捨てようと思った。でもこれ捨てたらお前泣き止まねェからな」
「うん」
「即答すんな。自力で泣き止め」
「だって、この子が全部吸い取ってくれる気がするんだもん」

 はァ、とこぼせば溜息つくと幸せが逃げるとか言いやがって、お前のせいだろ。それにそいつが吸い取ってるのはもろもろの液体だけだ。けどまァ、ぬいぐるみ抱いて笑ってるのを見たら、まぁいいかって気になっちまう。これも昔っからだな。……とっとと忘れちまえってんだ。

「××、そいつ今日持って帰れ」
「くれるの?」
「洗濯して返せってんだよ。お前の涙と涎と鼻水で汚ェ」
「なっ!」
「ちゃんと柔軟剤も使えよ。ガビガビで毛並みが最悪じゃねェか」
「……ロー、なんだかんだで結構気に入ってるでしょ」

 うるせェ。

「捨てないでよ」
「……捨てれるかよ」




2010.0901
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