浮気と勘違いされるエース
船縁にもたれて、物資の調達に向かった二番隊もとい、エースの帰りを待つ。
この島に到着したのがお昼前。
真っ先に二番隊が上陸をして、各々小隊に分かれて島の中へと散って行った。
その様を眺めてからずっと、同じ場所でこうしている。
溜息をついて彼が早く帰ってくるわけでもなし。それでもつまらないなァと、溜まる息を吐き出さずには居られなかった。
二、三時間、いやもう少し時間が経ったかもしれない。
ぞろぞろと、各小隊が山積みになった荷車を牽き、その両腕にも荷を抱えて戻ってきた。
一班また一班と、帰ってきた仲間達と「おかえり」「ただいま」「お疲れさま」のやり取りをする。
探しても探しても、目印のテンガロンハットは見当たらなかった。
「エースは?」
「ああなんか、途中でどっか行くって言って」
これだけの物資を揃えられる島なのだから、それなりに大きく栄えていると言うことだろう。エースの興味を惹くものが何かあったのかもしれない。
仲間には軽く返事だけをして、再度島に目を向けた。
この島のログの溜まりは早く、遅くとも明日の夜には出航しなければならない。
特に約束をしていたわけではないけど、せっかく上陸したのだからデートぐらいしたかった。
そう言っておけばエースは寄り道せずに帰ってきたかもしれないな、なんてことを考える。
「つまんないなァ」
夕陽が顔をのぞかせる頃になってようやくエースは帰ってきた。
「おかえり」
「お、おう。ただいま」
あからさまに何か隠してますと左右に動く瞳が言っている。
「エース遅かったね」
「お、おう。ちょっとな」
汗掻いたからシャワー浴びてくるわと、エースが私の横を通り過ぎた時。ふわっと、甘い香りが髪の毛から漂ってきた。
思わずエースの腕を掴んだ。
「な、なんだ、どうした」
相変わらず瞳は左右に動いていて、早くここを動きたいと言っている。
腕を掴んだままエースに近づいて、その身体に身を、鼻を寄せる。
くんくん
ああ、やっぱり甘いにおいがする。
「エース、なんか甘いにおいがする」
「そ、そうか? 気のせいじゃねェか?」
「……浮気?」
こういうことは回りくどく聞くよりも、ストレートに聞いた方が良い。
遅い帰り、甘い匂い、どことなく乱れた髪、早くシャワーを浴びたい、泳ぐ瞳。疑う材料としては完璧だ。
エースだって男だし、顔だって悪くない。
そこそこに栄えている街であれば当然そういう店だってあるだろうし、誘いを受けてもおかしくない。それにエースが乗ることはないと、断言はできない。エースだって男だし。
「おれが、んなことするわけねェだろ」
「でも、いろいろ怪しい」
浮気なんてしていないと言うエース、疑う私。
無言の攻防を繰り広げているうちに、エースを掴んでいる手にも力がこもる。
今日はこんなことがしたかったわけじゃないのに。
「わかった。本当のこと話す」
まず、浮気はしてない。と、ベルトを弄りながら念を押された。
私は黙って、でも掴んだ腕は放さずに聞いた。
「最初は隊のやつらとちゃんと物資の調達をやってたんだ。んで、一通り揃え終わって船に戻るかって時によ……その、美味そうな匂いが、な?」
そこまで聞けば十分だった。
美味しそうなレストランがランチバイキングをしていて、その匂いにつられてエースはレストランへ入って行った。
そこでいつものように山盛りの料理を食べながら、その山に突っ伏して寝て、起きては食べ、寝てを繰り返した。最後にはデザートのケーキに突っ伏してしまったから、甘い匂いだけが強く残ってしまった。と言うことだ。
確かに、少し油臭いにおいもしたような気がする。
「なんで隠したの?」
「いや……それは、その、な!」
ああ、また食い逃げをしてきたんだ。
食い逃げをするなんて白ひげの名に傷がつく、といつも私が怒るから。
「あとでお店に代金払いに行くからね」
「お、おう!!」
「じゃあ早くシャワー浴びてきて。臭い」
「く、臭いってお前」
「油臭い。そんなので抱きついてきたらはっ倒す」
「わ、わかった」
腕を放してあげれば、エースは全力で風呂場に向かった。
私はその背中に、大声で一言言ってやった。
「親父ィーー! エースがまた食い逃げしたってーー!!」
エースが親父やマルコから説教を喰らおうが拳骨を貰おうが知らない。
私を置いてバイキングに行ったエースが悪い。
私にエースを疑わせたエースが悪い。
2010.1217