本当は両想いなロー君と
ちょっと前に友達に彼氏ができた。1年ぐらい片想いをしていた相手で、私もよく相談されていたから、彼氏ができたって報告をもらった時は一緒になって喜んだ。それから、友達は彼氏と一緒に帰るようになった。友情より恋か、なんて馬鹿げたことは言わないけど、毎日一緒に喋りながら帰っていたから隣がいないのはちょっと淋しい。明日から音楽プレイヤーでも持って行こうかな。
「○○」
「ロー?」
バス停でぼんやりしていると、声を掛けてきたのは同じクラスのトラファルガー・ロー。私は彼に片想い中で、この帰り道で件の友達とお互いの恋バナをして帰っていた。その彼に声を掛けられるなんて……伝わりにくいと思うけど、心臓はドキドキではなくバクバクしている。
「今日は自転車じゃないんだ」
「あ? まあな。お前は?」
「私? 私普段からバス通だけど」
「知ってる。そうじゃなくて、いつも白井と一緒に帰ってんだろ」
「あぁ。ふふ、ちょっと前に彼氏できてね、そっちに取られちゃった」
ローに声を掛けられてからものの数分でバスがやってきた。あと2分位、ローと並んで待っていても良かったのにな。このバスは比較的時刻どおりに循環していていつも助かるんだけど、今日はちょっと残念だったな。
ステップを上がって、もはや指定席かと言うぐらい毎日座っている最後部座席を目指す。
「○○どこまで乗ってくんだ?」
「駅まで。ローは?」
「おれも駅まで」
じゃあお前窓側な、とローに促されて座る。窓側は実は初めて。しかも真横にローがいるって言うのはとんでもなく緊張する。隣の席になったことだってないのに。
「で、1人で帰ってるってことは、お前は彼氏いねェのか」
「……そこには触れないでくれるかな」
「好きなヤツとかいねェのか」
「いやだからさ」
「いるのか」
「……」
「いるんだな」
ローは鋭い。だから勘付かれないように私は窓の外を見て聞こえない振りを通すことにした。これが窓側じゃなかったらと思うと、冷や汗ものだ。
「誰だ。うちのクラスか?」
「……」
「無言は肯定と取るぞ」
「ちょ、なんで」
「……うちのクラスか」
「は、ちょ、私なにも言ってない」
「お前その動揺で隠せると思ってんのか。だいたいさっきから外見すぎなんだよ」
ああやっぱりローは鋭い。あれ、私がわかりやすいのかな? でも、まさか自分が好かれているとは思うまい。それはそれで複雑だけど。
「……恋愛は自由でしょ」
「誰だ、言え」
「脅迫!?」
「脅してねェだろ。命令だ」
「絶対言わない」
こんな状況で、実はローが好きなんだ……とか言ったらどうなるんだろう。
少女マンガのありがちな展開で言えば「おれも」ってなって、甘い雰囲気になってそのまま付き合うようになって、とんとん拍子に事が進むんだろう。でもさすがにそれは無い。ローの場合「ふーん」とか言ってそっけない感じか「おれが好きか」とかナルシスト発言が出そうな気がする。そんな所も好きだけど。
「ローは、好きな人いないわけ」
こういう状況でありがちなパターンその2。状況打破をしつつ、ローのことを聞き出すと言う一石二鳥な切り返し。ただ、返答次第では失恋が確定する諸刃の剣。
「……いるな」
「うそ」
まさかまともに返事が返ってくるとは……これまた少女マンガのありがちな展開で「お前」とか言われたらもう、嬉しさと恥ずかしさのあまりバスを飛び降りたくなるけど、さすがに無いよね。ああ、やっぱりパターンその2は諸刃の剣だ。
「いちゃ悪ィか」
「いやいやいや。で、誰誰」
「教えねェ」
「なんで」
「お前も言わなかっただろ」
「うっ」
振り出しに戻った。私が自分で戻しちゃったんだけど。
それから誰だ誰だとやり取りを繰り返した結果、私達は疲れた。それまでのやり取りが嘘のように黙りこくった。私はずっと窓の外を見ていて、窓ガラスに映るローをチラ見すれば、ローもまた反対側の窓の外を見ているようで、その横顔カッコイイなとか思ってた。
お互い必死に相手が誰かを探り合っているなんて、知るはずもなく。
「××駅―、××駅です」
無言のまま、私は運転手さんにバス定期を見せて、ローは小銭をジャラジャラと機械に落としてバスを降りた。
プシュー、ピコンピコン。バスの扉は閉まり、新しいお客を乗せて走りだした。
「じゃ、私こっちだから」
「ああ」
私は電車に乗るために駅の階段へ向かう。ローはどっちに行くかわからないけど、電車には乗らないから私が先に背を向けた。
バス停ではあんなにばくばくしていた心臓が今はもやもやしていて、どんな顔でさよならしたかもわからない。
(うちのクラス、可愛い子多いからなァ)
(…………チャリ、取りに戻るか)
2010.1113