拍手連載 親鳥子鳥(1)


 その出会いは、とある野生の動物達が多く住む島でのこと。
 導いたのは――

「おーいサッチ驚け」

 大きな楕円をした物体を持っている、そばかすがチャーミングなこの青年。

「驚かねェよ。でどうした」

 サッチと呼ばれた金髪リーゼントが特徴のこの男は、青年エースに向かってまたなんかやらかしたのか、と言った風な顔をする。

「たまごだ」
「ほーこりゃずいぶんデカいたまごだなァ……ってお前コレどうしたんだ」
「拾った」
「どっかの巣から持ってきたのか?」
「拾ったんだって」
「今頃このたまごの親は泣いてるぞ。親にとってたまごは宝だぞ! それをお前って奴は。あ、でもおれ達海賊だしな」
「だから! 拾ったって言ってんだろうが!!」

 先ほど青年が持っていた物体は何かのたまごらしい。
 拾って来たと自慢げに披露するのだが、見せられた男はどこの巣から持ってきたのだ親が泣くぞと、おいおいと泣き真似をしながら問うた。

「拾った? お前が?」
「ああ」
「どうせ食っちまおうと思ったんだろ」
「それはねえ!」
「本当か?」
「ああ。こいつがでっかくなったら肉が食えるだろうが」
「……そういうことね。やっぱりエースだなァ」

 そう、それがエースと言う青年である。
 食べられそうなものはなんでも食糧とみなす。このたまごも憐れ、彼のお眼鏡にかなってしまったということだ。しかも将来性を、だ。

「でもなあエース。まずこいつが孵化しなきゃ始まんねェぞ」
「んなこたァわかってる。おれが拾ったんだ、おれが温める」
「お前が温めたら玉子焼きならぬ焼きたまごになっちまうだろ。却下却下」
「じゃあどうすんだよ」
「うちには適任の奴がいるじゃねェか」

 ニヤリと笑う男を見て、青年は思った。
――こいつろくなこと考えてねェな
 と。










「と、言うわけだマルコ」
「どういうわけだよい」

 マルコと呼ばれた男は、寛ぎタイムを満喫していたところを邪魔され些か不機嫌である。
 が、サッチにとってはいつものことであるので特に気に留めた様子もなく、話を進めていく。

「このたまごが孵化するには親が温めてやんなきゃなんねェだろ?」
「だから何でそれがおれなんだって聞いてんだよい。エースでもお前でも、布団にくるんでりゃあいいだろい」
「何言ってんだマルコ」

 お前はわかっちゃいねェな、と演技がかるサッチを見て、男の顔はまた一つ不機嫌に歪んだ。

「鳥といったらお前しかいないだろ。この船の上で!!」
「ほう、これは鳥のたまごなのかい」
「いや、なんとなく。雰囲気で」
「さっさと戻してこい」
「それがよォ……」
「わり、どこで拾ったか忘れちまった」

 悪気が有るのか無いのか、あっけらかんと述べるエースに男は溜息を禁じ得なかった。

「つーわけよ。へたに戻してほかの動物の餌食になるのも可哀想だろ?」
「エースの腹に収まるのは可哀想じゃねえってかい」
「ま、そこは成長次第だからよ」
「マルコ、頼む!!!!」
「……はあ、わかったよい」
「ほんとか」
「って言うと思うなよい」
「え」
「百歩譲ってそいつをうちに置くとしてだ、エースが拾ってきたんならエースが親代わりするのが筋だろい」
「いやだから、エースが抱いたらな」
「布団にくるみゃ問題無いよい」

 ピクッ

「ん?」

 ピクピクッ

 男達の声に反応したのかたまごがピクリピクリと反応を見せ、その様に男達もピクリと反応を返した。

 ゴロ……ゴロ……

 コツ

「あ」
「こりゃあもう決まりだな」
「は、勝手なこと言ってんじゃないよい」
「いやいやいや、お前は選ばれたんだって。よかったな、マルコ」

 ピクリピクリと動いていたたまごは、自ら望むようにゴロリゴロリ。マルコの足元めがけて転がり、その足にコツリと当たって動きを止めた。

 マルコが足をどければまたその足元へと転がるたまご。

「マルコ。観念しろって」

 男はニヤニヤと笑うサッチに鋭く視線を送るものの、

「わかったよい」

 致し方ないと。
 今度こそ本当に、承諾の意を示したのだった。



 これがまず一歩。
 男とたまごの出会いであった。


2010.1213~1221
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