連載プロローグ風 その2
「もう二週間かー」
私は今船の上で潮風を感じている。船と言ってもなんと海賊船である。しかもこの世界では知らない人はいないという白ひげ海賊団の船である。
そう、この世界では、だ。
私は二週間前まで知りもしなかった。
何故なら……私は別の世界から来たのだから!!
「オイ、何してんだよい」
この人はこの船の、白ひげ海賊団の一番隊隊長マルコ。
見知らぬ世界から突然この船へと落ちてきた私を最初は警戒していたが、話を聞いてくれ、船長である白ひげにこの船に置くよう提言してくれた命の恩人だ。そしてそのことから私の世話役をしてくれている。
なんていうのは、よくある話だと思うが実はそうじゃない。
実際に私を助けてくれたのは暇を潰していた下っ端クルーと、コックだ。
確かに私は落ちてきた。落ちてきたが船上ではなく海上に。
ちょうどそこには、ヒト一人り丸飲みできるだろう魚が口を開けて待っていた。こんな漫画のような展開あってたまるか! と思いながらどうすることもできず、私はやつの口に収まってしまった。それを見ていたのが釣り糸を垂らしていたクルーで、魚ごとを私を引き上げてくれた。
そのまま口を開けて出してくれればよかったのに、あろうことかコックを呼び捌きだしたらしい。おかげ様で魚の体液と血液でまみれ、気を失った状態で助け出された。
マルコはその様子をぼーっと眺めていたと言う。
何とも色気もロマンスも無い出会いだったのだ。
「オイ、誰に話しかけてんだよい」
「はー、あの時もうちょっといい助け方があったと思うんだ」
「人の話聞いてるか」
「んー、まぁまぁ気にしないの。しいて言うなら異世界との交信だとでも」
そうこうして助け出された私は、意識が回復すると早々に質問責めにあった。
自分でも事の整理がついていない状態で、名前と住所と職業と年齢と、つい先ほどまで自室で寛いでいたことを話した。しかしどうも話が噛み合わず、頭がおかしいのかとか海軍のスパイじゃないかとか言われた。ふと私は異世界に飛ばされたんじゃないか? と思い進言するが、頭の固いわからんちんの隊長は手に負えなくなったようで
「オイ、それはおれのことかよい」
船長に指示を仰ぐ形となったのだ。
「無視すんな!」
すると流石というべきだろうか。長く広く世界を見ているだけあって、船長は私の異世界説を信じてくれ、この船に置いてくれると言ったのだ! 船長万歳! それみろマルコ!
「オイ!」
船長の計らいにより、船に慣れるために世話役をつけようとなったのだが、その決め方が何とも……くじ引き。十六人の隊長が一斉にくじを引き、ハズレというべきアタリを引いたのがこのマルコ。
つくづく残念な出会いだ。
一番隊隊長なら世話役ぐらいかって出てくれても良かったと思う。
実のところ、質問責めにあった際にエースはあっけらかんと私のことを信じてくれたので、彼が引いてくれれば良かったと心底思ったのだ。マルコが怒るから言わないけど。
「声に出してるぞ」
そんなこんなで、私の異世界生活が二週間前にスタートしたのでした。
2010.1208~1213