大丈夫


「キラー、キラー」

 ドアを開けてわたしを見るキラーはいつものマスクを付けたままで、わたしがまくらを抱きしいめていることに気づくと「入れ」と言ってくれた。
 わたしはキラーが開けたドアのすき間をダッシュで通り抜けて、そのままベッドに飛び込んだ。ボスンと体が沈んで、浮いたと思ったらまた沈んだ。キラーがベッドに座ったみたい。まくらに埋めた顔を持ち上げてキラーを見た。キラーは「ここで寝るか」って、言ってくれた。

「キラーも、早く」

 まくらをセットして布団にもぐったわたし。キラーはテーブルランプを消してから布団に入って、わたしの体を自分の方に寄せてくれた。わたしの背中には壁があって、上の方に窓がある。
 怒ったみたいにピカピカ光る雷も、空を閉じこめちゃった黒い黒い雲も、飲みこまれちゃいそうな海も、もうわたしには見えない。船をうちつける雨の音も、すき間風のヒューヒューした音も聞こえなくて、キラーの左手からドクドクって、キラーの音だけが聞こえてくる。
 キラーはわたしの背中を何度もさすってくれる。そうするとだんだん眠くなってきて、いつも気付いたら朝になっていて、キラーが「おはよう」って起こしてくれる。ひとりで眠れないことをキッドにバカにされるけど、キラーは「そのうち慣れる」って、いつもベッドの半分を貸してくれる。

「ッッ」

 船が大きく揺れてテーブルランプが倒れたのか、ゴトッという音が、キラーの左手も通り抜けてわたしの体を縮こませた。

「大丈夫だ」

 キラーはわたしの頭をすっぽりと包むように布団をかけ直して、さっきよりもぎゅっと、体を寄せてくれた。「大丈夫だ」って、何度も背中をさすりながら言ってくれる。

「キラー」
「ナマエ、寝ないで隈を作ったらキッドに笑われるぞ」
「……それは、ヤ」

 おやすみを言ったあともキラーはずっと、子守唄を歌うみたいに「大丈夫だ」って、背中をさすりながら言ってくれた。なんだか体がぽかぽかしてきて、大きなあくびをひとつしたら、キラーの声も小さくなってた。


2011.0325
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