ふたりの愛の温度差について


 わずかな明かりが灯[とも]る部屋にふたり。

 男と女が愛しあうとき、女は男よりもムードを大事にすると思う。少なくとも、私は彼よりムードを気にしている。
 昼間の眩しさや天井からぶら下がった白色な明かりの下での行為は嫌。羞恥心がそう言うわけじゃなくて、どこでも盛る動物的すぎる気がして嫌なだけ。でも顔が見えないほど真っ暗なのも嫌。誰としているかもわからない、わかってもらえないなんて、嫌。
 サイドテーブルにおかれたステンドグラスのキャンドルライトが好き。表情が見えて、その陰影が官能的。
 
 いまその空間に、ローとふたり。
 とろけた肉体とはっきりしている意識のなかで、私は思う。

「ナマエ」

 脳を痺れさせるこの声で、あの女の人の名前も呼んだのだろうか。

「好きだ」

 男のくせに、と言うと怒るこの柔らかな唇を、あの女の人にも重ねたのだろうか。

 優しく髪を梳[と]くその手は、あの女の人の髪も同じ様に梳いたのだろうか。滑らかに下りてくるその唇から剥き出された歯は、あの女の人の鎖骨下にも鬱血痕を残したのだろうか。器用な指先は肌を隠す衣類を邪魔者扱いし、胸の拘束具など最初から外れていたと言わんばかりに容易に取り去ったのだろうか。そのひんやりとした指と掌は、温もりを求めてあの女の身体もさまよったのだろうか……

「どうした」

 気が付けば、私は彼を拒んでいた。肩を押し返す両腕がピンと伸びていた。

「私の平熱の話したの、覚えてる?」
「……おれとの差がジャスト1度だってやつか」

 彼にとっては星の数ほどあるピロートークのうちの1つ。自身の職業にかけらでも関連するものがなければ、こんな話は覚えていないだろう。

「それくらいだったらいいのに」
「なんの話だ」

 私は頭がショートする瞬間よりも、彼の侵入を感じる瞬間よりも、私より温度の低いローの身体が徐々に熱を帯びて、汗を滲ませて、どちらの体温ともわからなくなるあの時がなによりも好きで、幸せ。

「ローは、浮気なんて絶対にできないよね」

 1度の差なら、その差を愛おしく思えるかもしれない。まったく同じなら、きっとあなたはすぐに飽きてしまうだろうから。

「珍しいな、お前が」 ローは浮気なんて、絶対にできない男。

「本気があるから浮気になるのよ」

 私もあの女も私の知らない女たちも、誰もローの本気なんて知らない。浮気相手にすらならない。それに気づいているのはきっと私だけ。せめて、浮気だと思っていたかった。

 本気と浮気の差は微妙だと思う。
 完全に割り切る人もいるようだけど、温度差で言ったら1度あるかないかかもしれない。だから、気付かぬうちにすり替わっている人がいるのだと思う。
 だとしたら。本気と、浮気ですらないこの差は……

「私の体温で埋められたらいいのに」


2011.0228
企画『ごめんなさい。』第3弾提出品
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