月が沈み太陽が昇る、それだけ
一年の締めくくりに何かをしようと思った。
試しに定番であろう今年を振り返ってみた。
戦闘。
キッドと喧嘩をしてキラーに宥められるかお説教される。
多くの島へ上陸し、名物を楽しんだり鉢合わせた同業者と戦闘したり。酒場に行けばキッドが女を侍らせるので喧嘩をしてキラーに宥められる。それから、キッドに戦闘が困難になるほど愛される。
季節感の無いこの海で、年の初めからの事を順々に思い出すのは案外難しく、頭を掠めたのはなんとも海賊らしい事ばかり。特に今年は、ということも無く毎年同じようなことを繰り返している気がする。
また、変わらない一年がやってくる。
そう思うとなんだかつまらない。海賊は人生を誰よりも楽しんでいると思っている私が、振り返れば毎年同じように生きているだなんて。
「そういうわけだから、花火でも打ち上げてみようと思うんだけど」
「うちにんなもんはねェだろうが」
「じゃあ大砲で良い」
「もったいねェ事すんじゃねェ」
何もしないのはつまらないから、一年の締めくくりに花火をと思ったのにあっさりと却下。大砲も却下。
砲弾の一発ぐらい、酒場で一日に使うお金に比べたら安いものじゃないかとか、敵戦から奪ったものだし、また奪うのだから良いじゃないかとか思ってはみるものの、船長がノーと言えばノーなのだから潔く諦めた。
ああ、結局いつもと変わらない一年を終えようとしているのだ。
「なんなんだいきなり」
「終わりよければ全てよし。最後に何かやっとけば印象に残る一年になる気がしただけ」
「それで花火たァ、発想が貧弱だな」
「海の上じゃ今から何かしようったって、限られてるでしょ」
「唐突すぎるからだろ。計画性ってもんを知れ」
「キッドに言われたくない」
「あん?」
「あーやめやめ。このままじゃ喧嘩になりそう。ストップ」
不機嫌になったキッドの顔の前で、私は両手を振って制止をアピールした。ここで喧嘩をすれば、キラーのお説教で年を越してしまう気がしたのだ。
一年の終わりがお説教で、一年の始まりもお説教だなんて、それはそれで印象に残る気がするけれど良い気分にはならない。
「終わりも始まりも関係ねェ、今日は今日だろうが」
「その考えつまんない」
「何でもかんでもイベント事にすんじゃねェよ、面倒だろ」
「キッドは関心無さすぎ」
ああでもどうしてだろう、キッドが関係ないと言えば関係ないようにも思えてきた。
今日は今日だ。一年の終わりだろうとなんだろうと、今日はただ今日なのだ。今年が終わるとか新しい年が始まるとか、そんなのは大昔に誰かが勝手に一年の長さを決めてしまったからだ。何も知らなければ年の切れ目なんて知ることは無かっただろう。
去年も今年も、今年も来年も関係ない。今日は今日で明日は明日だ。あと数時間後の訪れるのは新年ではなくて明日。
ああでもそうなると、たった今の今まであと数時間後には新年だから心機一転しようとしていた私はどうなるのだろう。今年とは違う一年を送ろうとしていた私は、どうすればいいのだろう。
「頭が痛くなってきた」
「普段使わねェもん使うからだ」
「キッドが変なこと言うから」
「人のせいにすんじゃねェよ」
痛みが引かない頭を抱えて、こういうことはキラーに話せばよかったなと思う。花火の件に賛同してくれるかは分からないし、キラーが一年についてどう考えているかもわからないけれど、少なくともこうやって喧嘩腰になることは無いはずだ。
「ようは自分次第だろ」
「ん?」
「今日とか明日とかそういうもんも考えたら面倒くせェ。てめェがどうしたいか、どうするかで決まるんだよ。おれ達はそうやってここまで来ただろうが」
キッドは平然と言ってのけるけれど、キッドのこういう一言は、頭に衝撃が走る。胸に剣が刺さったような感覚になる。
もしかしたら、キッドは今日とか明日とか一年とかそういうものすら、誰かに決められたものなら気に入らないのかもしれない。その括りの中で考え、行動し、生きることが、掌の上で転がされているようで気に入らないのかもしれない。
今日も明日も一年も関係なく、常に自分が基準。
だいぶ図太い生き方だけれど、それがキッド。ユースタス“キャプテン”キッド。
「あーあ、なんだか考え込んでいた私が馬鹿みたい」
「自分の馬鹿さ加減に気づいてないんじゃ、よほどの馬鹿だな」
「はいはい、そういうことにしときます」
私がどうしたくて、どうするか、か。
頭の痛みも少しは引いたところで、厨房の手伝いにでも行こうと腰を上げた。
「あ、キッド今日の宴は不参加でしょ?」
「なんでそうなる」
「だって年越しの宴ってことで準備してるんだから、終わりも始まりも関係ないキッドには関係ないでしょ?」
「それとこれとは話が別だ」
2010.1231