遅刻魔のサンタクロース
――今日は何の日のお時間です
ポチ
朝起きて一番につけたラジオを即座に消した。
今日が何の日かって、クリスマスの次の日ですがそれがどうしたの。
イヴだ聖夜だ恋人達の日だと言う日を通り過ぎた。
街の半分はまだその余韻が残っていて、イベント商品が半額セールにかけられている。それでも半分は新年を迎える準備に切り替わっていて、もうイベントは終わりました、次に備えてますと言う顔になる。
私のクリスマスはまだ始まっていないと言うのに。ああでも、カレンダーとしてはもうクリスマスではないのか。
クリスマス前にやってくる、おっちょこちょいなサンタクロースの歌があった。確かプレゼントは手にしていなかったけれど、みんなと楽しく過ごしたという歌だったような気がする。
いいじゃないか、早くくる分には。世界がクリスマスムードに染まっているその時なのだから。
私のサンタクロースはクリスマス当日にはやってこないし、プレゼントよりも甘い言葉よりも先に、私に陰鬱ムードを持ってきてくれたんだ。
なんて考えることも馬鹿らしい。
冷蔵庫には一応作ったクリスマスケーキが入っている。ガスコンロには一昨日から用意されているビーフシチューの入った鍋が早く温めてくれと待っているのに、私は携帯電話を握りしめたまま炬燵[こたつ]に潜り込んだ。
あれから何度か目が覚めては時計を確認して、携帯電話を確認して、炬燵に潜り込むということを繰り返した。未だに彼は来ない。
年末だから仕事が忙しいのはよくわかる。彼の役職上そうそう簡単に休みが取れるわけはないし、休日らしい休日が滅多に無いこともわかっている。
お互いの誕生日だって、その日に過ごせた記憶の方が少ない。それでも、それは良かった。
けれどどうしてか、クリスマスという世界的にカレンダー上で決まっているイベントに関しては、その日に過ごせないことが淋しかった。
淋しさに慣れていたわけではないけれど、どうしてか、今年は一層淋しい。
「マルコ……」
彼の名前を呼んでみれば、淋しさは増すばかりだった。
また炬燵に潜り込もうとしたら、握っていた携帯電話から専用の着信音が鳴った。
――開けてくれ
合鍵を渡してあるじゃないとか、着く前に連絡入れてよとか、そんなことを思ったりもした。けれど、急いで炬燵から這い出て玄関の鍵とドアを開けてそのまま彼に抱きついた私は、ちょっと前の自分が何を思っていたのかなんてすっかり忘れてしまった。
「遅くなって悪かったよい」
そう額に触れた彼の唇は、部屋で一日ぬくぬくしていた私の身体を震わせた。
Merry Christmas 2010.1226