クリスマスはよい子の日


「キャプテーン」
「船長ォー」

「メリークリスマース!」

 本当はここでクラッカーの一つや二つ鳴らしたいところだったけれど、船長に向けたら怒られることは目に見えているし、なにより後片付けが面倒だと、ベポと相談の上に中止した。

「なんだ」
「メリークリスマース!!」
「お前ら、今日が何の日かわかってるのか」
「クリスマス!!」
「その手は何だ」
「プレゼントは?」
「ハロウィンじゃねェんだ。掛け声言ったら貰えると思うな」
「……キャプテン」
「……船長」

「プレゼントは?」
「ねェよ」

「そんなぁああああああ!!!」



 私とベポは床に崩れ落ちた。
 船長からプレゼントが貰えるとばっかり思っていたのに。

 思い返せば、ああは言ったけれど船長はハロウィンの時だって何もくれなかったし、イタズラもさせてくれなかった。
 それでも今日は一年に一度のよい子の為のプレゼントデーだから、きっと船長は何か用意してくれていると思っていたのに。

「だいたいなんでおれがんなもん用意しなきゃなんねェんだ」
「だってペンギンが!」
「よい子にしてたらキャプテンがプレゼントくれるって!」
「おれはサンタじゃねェ」

 船長があの赤い服着て白いひげ生やしていたら……ダメだ、笑ってしまう。いやいやそうじゃなくて。

「ペンギンめ……」

 私とベポは、ペンギンをクラッカーの刑に処すことを決めた。
 ありったけのクラッカーをペンギンの部屋で鳴らしまくってやる。掃除もペンギンにやらせるのだ。
 
 可哀想? いやいや。

 今日の日の為に私達はみんなが嫌がるトイレ掃除や風呂掃除をし、洗濯も皿洗いも新入り同然にやって、船内を走り回ることもしなかったしキャスケットの遊び相手だってやったのだ。
 それなのにそれなのに……

 プレゼントがもらえないなんてあんまりだ!!



「あ、船長」
「なんだ」
「ターキーはありますか!」
「七面鳥か。ねェな」
「そんな!!」

 クリスマスと言えばターキー。
 私とベポの楽しみその二も無いなんて……私達は再び崩れ落ちた。
 もう、今日がクリスマスなんて嘘だと思います。ああもう、こうなったらいっそのこと

「ベポ」
「なにナマエ」
「ターキーになって」
「おれ!? 無理だよ! おれクマだもん」
「ベポ、突っ込むところそこじゃねェだろ」
「無理じゃないよ。クマってことはベアーでしょ?」
「え、う、うん」
「七面鳥の丸焼きがターキー。ベア―の丸焼きは?」
「え、え??」
「ベアー焼きベアー焼きベアーヤキビェアーヤキビェーヤキビェーキーターキー。ほら」
「無理矢理!!」

 ベポにターキー代わりを全力で拒否されてしまった。
 どうしてだろう。クリスマスを精一杯楽しむために、仲間のために一肌脱いでくれたっていいではないか。私はターキーが食べたいだけなのに。

「仲間食おうとしてんじゃねェよ」

 しょげていると船長から拳骨をいただいた。まったくもって嬉しくないプレゼントだ。コブまでできた気がする。

「次の島で調達してやるから、ベポを食うな」
「お言葉ですが船長、クリスマスは今日なんです! プレゼントもターキーも今日じゃなきゃ意味がないんです!!」
「ガキか」
「こどもでけっこう!」
「……そういうお前はプレゼント用意してんのか」
「あります! はい、これ船長の分」

 本当は船長からのプレゼントと交換で渡すはずだったもの。
 つなぎのポケットから探り出して、船長にはいと渡すと……どういうことだ、船長の眉間に皺が寄った。

「……肩たたき券十回分」
「船長だから特別に十回分です。他のみんなは三回分です」
「ナマエおれ貰ってない!」
「あ、これベポの分。ベポは五回分ね」
「ガキか」
「立派なプレゼントです! 何も用意してない船長は文句言っちゃいけないんですよ!!」
「はいはい。ったく、しょうがねェな」

 もふっ

 頭に何かが乗っけられて、急に目の前が真っ暗になった。
 何だろう、と頭のあたりを触ってみると髪の毛ではなくて、もふもふとした手触り。乗っかっているそれを両手で掴んで目の前に持ってきてみる。
 するとどういうことだろう、私の手が掴んでいるのは紛れもなく船長の帽子だった。

「それで我慢しとけ」

 船長を見れば、やっぱり帽子はその頭に乗っていなかった。

「え。これ、これ貰っていいんですか!?」
「さァ、どうするかな」
「?」「とりあえず、仕方ねェから今日一日貸してやる。わかったらさっさとベポと遊んで来い」
「……はい! ベポ、雪だるまつくろー」

 プレゼントなのかよくわからないけれど、船長がお気に入りの帽子を貸してくれた。私がかなり前から欲しい、かぶらせてと強請っていたあの帽子だ。
 もふもふしていて気持ちよくて温かい。



 甲板に出ればほろほろと降り続く雪。

 ターキーが無いのは残念で仕方ないけれど、プレゼントを貰えたというわけでもないけれど、船長の帽子を借りれたことで我慢しよう。わがままは言わない。

 だって私はよい子だから!





(……たしか、麦わら屋の船にトナカイがいたな)


Merry Christmas!
2010.1224
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