俺がお前を好きなんだ、お前も俺を好きになれ


――おれがお前を好きなんだ、お前もおれを好きになれ

 この台詞を聞いた世の女性はどういった感想を持つのだろうか。俺様過ぎて苛立ちを覚える人、強引なところに惹かれる人、ジャイアニズムへの理解に苦しむ人など、様々だと思う。
 私は面と向かってこの台詞を聞いた時、この男は一体何を言っているのだろうと、その意を汲み取ることができなかった。少しの間呆けてしまっていたし、その男が捨て台詞よろしくそれだけ言ってその場を立ち去ってしまった為に、聞き直すということもできなかった。





「それで、おれに聞くのは人違いだと思うが」
「彼に聞いてもまともな答えが返ってくるとは思えないもの。それにあなた、彼のことよくわかってるみたいだし」

 ストライプの模様の隙間から苦笑ともとれる息を漏らす彼は、巷を騒がせている億越えのルーキー。街の人は関わらないようにしているけれど、私からすれば彼もただの客。そしてなにより、今私を困らせている男の船に乗っているのだから、関わらずにはいられない。

「それで、あれは脅迫なの告白なの?」
「酒場をやっていれば声の1つや2つかかるだろう。そういう意味だ」
「海賊が相手じゃ脅迫と取ってもおかしくないでしょうよ」

 ましてやあの顔だ。恐怖を覚えることはなかったにしても、眉間に皺をよせ不機嫌な声で言われて、誰が告白だと思えようか。

「キッドはその手のことは慣れてないんだ」
「海賊なのに?」
「……海賊をどういうイメージで捉えているか知らないが、あいつから声を掛けることはまずないし、声を掛けられるのもあいつは嫌う」
「でも私は声を掛けられた」
「だから、そういうことだろう。おれも昨日は驚いた」

 彼が驚いていようといまいと私は知る術がないのだけれど、口ぶりからすればどうやら嘘ではないようだ。
 はてと、彼の言葉とともにもう一度あの台詞を思い返してみる。

「もしかして、照れてた、とか」
「…………」

 さあなと濁すのは、あれだけの強面でルーキーの中でもトップの賞金を懸けられている男が、ただの酒場の女1人に手こずるなど、船員の彼からすれば見たくない場面だったのかもしれない。それか気心知れた仲故に、初な一面を見て見ぬ振りをしてあげたいと思っているのかもしれない。

 バタンッ

 船長も船員も顔に似合わず可愛い一面があるものだと、心の内で笑んでいると性急に店の扉が開かれた。

「キラー、ここに居やがったのか」
「お前のことで呼び出しを食らったんだ」
「お茶に誘ったと言ってちょうだい」

 やって来たのは件の男。今日も不機嫌のようだ。
 お茶とは言ったが、仮面の彼に差し出しているのは紅茶やコーヒーではなく、昨日も彼らがここで飲んでいた酒である。

「キッド、こいつはお前が昨日言った事の意味を理解できなかったらしい」

 「昨日言った事」と聞き男の眉がピクリと動く。昨夜のように眉間に皺を寄せていた彼は、私を見て一言返した。

「馬鹿か」
「あら、照れ屋な坊やはお口が悪いことで」
「テメッ」
「さあそろそろ開店準備をしないと」

 仮面の彼に差し出したグラスを取り席を立つ。夜になったらまたいらっしゃいなと声を掛ければ、「あまり茶化さないでくれ」とストライプの隙間から小さく声が掛かる。

「ナマエ」

 不機嫌な声に名前を呼ばれ、そう言えば昨日教えたのだとふと思い出す。目線で言葉を促せば、少し詰まった後に一言。

「覚えとけよ」

 はてさて、これは告白と取るべきか脅迫と取るべきか。チラリと仮面の彼を見やれば、小さく苦笑を洩らしたようだった。


企画「絶対振り向かせてみせる!」提出作品
2010.1201
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