キミの笑顔が見たくてちらり


 もぐもぐもぐ、キョロもぐもぐもぐ、キョロぐー。
 がばっ……もぐもぐもぐもぐもぐもぐキョロ。

「エース、百歩譲って寝るのは仕方ないとして、落ち着いて食えガキか、飯抜きにするぞいい加減」
「そいつは困る。でもなサッチ」

 エース曰く、最近やたらと視線を感じる、らしい。そりゃあお前、こんだけ人数がいりゃあ誰かしらの話題に上がってるかも知れねェし、見られてるって感じてるだけで、実はおれを見てるとかな。

「いや、そりゃあねェよ」
「どういう意味だ」
「なんとなく」

 なんてこった。おいエース、お前は忘れてんのか。おれはみんなが憧れる4番隊隊長のサッチ様だぞ。もう良い、明日っからお前肉抜きだ肉抜き。

「悪い悪い。肉はおれのだからダメだ」
「反省してねェな! つーか肉はお前のじゃねェよ、船の食糧だよ!!」
「かたいこと言うなよ。どうせおれの胃袋に入るんだからおれのもんだろ」

 おれは明日からエース専用に肉抜き料理を考えることにした。骨だってやらん。まァそれは別の機会に話すとして。
 どうも視線は厨房の方から感じるんだと。そりゃあ、お前が他のヤツの飯食っちまって乱闘になるからだろ。お前はコックの敵だ。

「いや……なんつーか違うんだよなァ。コックは睨んでくるだろ? どっちかっつーとあれはチラ見だな。見られたと思ったらすぐ視線が消えるんだ。コックじゃねェけど、でもいっつも厨房の方からなんだ。嫌な感じじゃねェけど、誰だろうな」

 チラ見でエースを盗み見るような野郎はこの船にまずいない。そんな乙女チックな野郎がこの船にいるわけがない。そこで、もしやと、ある人物を思い浮かべおれは席を立った。

「お、サッチもういいのか? これおれ食っちまうぞ」
「色気より食い気だなお前は」
「色気なんて食えねェだろ」

 ごもっともで。でもなァ……おれの予想が正しけりゃ、お前がそれじゃあ報われねェ子がいんのよ。
 おれはあちこちのテーブルで起きている争奪戦をかいくぐり、真っすぐ歩いて厨房と食堂の壁の役割も担っているカウンターに座った。振り返れば、確かにここから真っすぐエースが見える。

「おうサッチ、エースの監視はいいのか?」
「ああ。あいつ明日から肉抜きにしてやってくれ。それよりよ、ナマエいるだろ。呼んでくれ」
「ナマエ? ちょっと待ってな」

 エースを始めクルーが食堂で争奪戦を繰り広げる中、すでに厨房では明日の朝食の準備に取り掛かっている。おれはカウンター席のクルーを相手にしているコックに声を掛け、コック見習いを一人呼んでもらった。

「サッチ隊長、お呼びでしょうか」

 ほんのり赤みがかったショートヘアーをキャップの内に隠して、油やソースで汚れたエプロンを身につけているこの子が、この厨房で紅一点、まだまだ新米コックにも遠い、見習いのナマエだ。

「仕事中に悪いな。ちょっとお前に聞きたいことがあってさ」
「なんでしょうか」

 エプロンの上に更に巻かれた前掛けが濡れてる所を見ると、洗い物でもしてたか。

「いや、まーたいしたことじゃないんだけど。エースのこと好きなわけ?」
「な、なな、なんですかいきなり」

 うわー、大当たり。めちゃくちゃ動揺してんなー。隠してるつもりみたいだけど、目がキョロキョロしてるからバレバレ。

「エースがな、最近視線を感じるっつーから」
「ば、ばばばれてるんですか」
「やっぱりナマエか。エースは誰にってところまでは気付いてないんだけどな。まーチラ見なんてカワイイことしてくれんのは、この船じゃナマエぐらいだろうなって。おれの推理は当たったわけだ」

 後ろをちょっと振り向けば、当の本人は色気より食い気、花より団子。女より肉だ。苦労するだろうなー、相手がエースじゃ。あ、あいつまた皿割りやがった。

「ああああのの」
「ん?」
「エース隊長には」
「おれがどうした?」

 ナイスタイミングでの登場だな。ナマエのチラ見視線に気づいてんだから、おれのガン見に気づかないわけないしな。まーいわゆるアイコンタクト的なヤツ。

「なんだ、サッチがナマエいじめてんじゃなかったのか?」
「おれが大事な大事なコック見習いにそんなことするかっつーの」
「で、おれがどうしたって?」
「ナマエ」
「あ、あああー、私まだ仕事途中なので戻らないと」
「そっか。じゃあおれの権限で今から休憩な」

 いやー、こういうのよくね?隊長の特権っての。おれは逃げだすナマエの手首をつかんで、にっこり笑ってやった。 厨房は心配すんな。見習い一人ちょこっと抜けたぐらいでガタガタするような厨房でたまるか。

「エース、ナマエがお前に話があるんだと。なかなか言い出せなくてチラ見してたらしいぜ」
「お、なんだ、あれナマエだったのか」
「ああ、いいやその」
「つーわけで、あとは2人でごゆっくりー。エース、お前も色気に目を向けろよ?」
「お?」
「ナマエ、エースは食欲第一だからな。チラ見だけで気を引くのは無理だ。とりあえず当たって砕けろ」
「サッチ隊長!!!」

 ナマエが青い顔をしておれに助けを求めているのが背中越しにもはっきりとわかる。けど、しーらないっと。なんか面白そうな予感もするしな。とりあえず、親父の耳にでも入れとくか。


企画「ちらりずむ」提出作品
2010.1014
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