自己紹介から始めましょう



「こいつがお前のこと好きなんだと」

 マルコから話があると居残りをさせられた。そのマルコは見知らぬ男を横に立たせ、開け放たれた扉のレールを境界線に見立て、廊下に立っている。私は教室内、一歩足を出せばもう廊下という、極めて近距離に立っている。
 こいつ、と言われた男に見覚えは皆無。今時珍しいリーゼントをキメているが、それと同じくらいに目元の傷が目を引く。風貌からして、男の勲章というやつかと勝手に納得する。
 優等生と言われるマルコにこんな友人がいたのかと思うが、クラスの男子がマルコは実は強いという話をしていた気がする。多少武道の心得があるとか、本人から聞いたような気もする。そう思えば、リーゼントをキメこむ友人がいても不思議ではないかもしれない。
 と、そこまで考えて、もしあるならば後でマルコの武勇伝を聞くことにして……

「それで?」

 私は何を求められているのか、マルコに聞いた。リーゼントの男は眉間に皺を寄せてこちらを見るばかりでいっこうに口を開く気配がない。もしや、これがガンを飛ばされている、という状況なのだろうか。

「おれァこいつにお前を紹介してくれって言われただけだ。あとのことは知ねェよい。おい、あとはてめェでどうにかしろ」

 無責任と言っていいものか。少なくとも私の立場からは、この状況を作るだけ作っておいて、鞄を手にすでに階段を降りているマルコは無責任だ。
 そして、どうにかしろと言われた彼は相変わらずガンを飛ばしている。マルコ、せめて彼の名前ぐらい置いていってほしかった。

「好きだ。付き合ってくれ」

 どうしたものかと瞬きをひとつしていると、なんとも清々しい告白をされた。そして、この清々しさは好印象かもしれないと、ぼんやり思う。
 マルコがこの男を連れてきた状況からこのような展開は予想がついていた。その時点で、返答はすぐにするべきなのかと考えていたのだが……

「あなた、名前は」

 彼は一転して寄せていた眉を離し、慌てて「サッチ」と、遅れた自己紹介を始めた。
 どうやらこちらの紹介は必要ないらしい。優等生マルコは、友人の前では口が軽いようだ。


2012.0118
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