誠意を尽くして接せよ



 年末年始我が家のテレビは朝から晩まで大忙しだ。どのテレビ局も特番を組むので、ついそれをダラダラ見てしまう。日頃「ダラダラするんじゃない」と言う母も、「年末年始ぐらいダラダラさせてよ」とテレビ前に居座っている。大晦日は家族で年越しそばを食べながら紅白歌合戦を見て、勝敗の行方を見届けてからようやくお風呂タイム。毎年家族の誰かが年越しを風呂場で迎えている。

「あけましておめでとう」

 0時を過ぎたと確認した父が発した一言に続き家族内で新年の挨拶を済ませると、父と母はそのまま「おやすみ」と寝室へ向かい、私と姉はチャンネルを回して年越しライブを見始める。
 そうこうして新年を5時間も過ぎれば20時間ほど起きている体は眠くなり、番組終了とともに布団の温もりを求めに行く。ここでようやくテレビも休憩タイムに入れるのだが、1〜2時間すれば母がまた働けと言うのだ。お疲れ様。

 1月1日午前11時。私はようやく新年の陽にあたった。寒々しいぐらいに晴れ渡った空を見上げ、ほんのりした暖かさをセーターが吸収し、冷たい空気を吸い込んでようやく、ああ新年だなと実感した。昨日と今日でなにかが劇的な変化を遂げたわけでもないのに、1月1日となると特別な感じを受けるから不思議だ。
 暖かいダウンコートにニット帽、ジーンズにニーハイブーツという防寒コーディネートで父がハンドルを握る車に乗り込む。目的地は毎年三が日には40万人以上が参拝するという神社。地元にも小さな神社があるが、なぜか昔から初詣は片道1時間と少しのところにあるこの神宮と決まっている。

 長い長い参拝の列を一歩一歩進み拝殿の前に立つ。マナー番組で仕入れた知識で、お賽銭を投げ、二礼二拍手一礼の作法をすませる。両親がお札や破魔矢を買っている間に、私と姉はおみくじを引き、二人とも大吉で大喜びした。
 参道脇に並ぶ屋台でお好み焼きやら厄除け団子を買い、帰路に着くともう3時のおやつ時。郵便ポストには輪ゴムで留められた年賀状の束が入っており、置き忘れていた携帯電話を見ると年賀メールと思われる新着メッセージが10件を超えていた。
 その内の1通の差出人、エースの名前を確認して、私は新年早々自分のやらかした大失態に慌てて団子をのどに詰まらせるところだった。

 エースには年明けとともにバースデーメールを送るつもりでいた。言い訳がましいが紅白を見終わった時はちゃんと覚えていた。それがどうしてメールを送らなかったのかと言えば、今年風呂場で新年を迎えたのは私だったからで、その後は姉に引きずられるように入りこんだ炬燵の中でアイドルグループにキャーキャー言っていたので、エースへのメールは他の年賀メールとともに頭の隅に追いやられてしまったのだ。アイドルよりエースのほうが断然好きなのに……

――明けましておめでとう。今年もよろしくな!!!

 絵文字も顔文字もない黒色の2行に、申し訳なさと、エースの優しさを感じる。

「ちょっと電話してくる」

 お茶でのどの通りをよくしてから階段を駆け上がる。自室の扉を閉めて、発信履歴からエースを見つけたら決定ボタンを2回連打。ベッドの上で正座をして呼び出し音を聞く。
 5コール過ぎる頃に、エースは年末から掛け持ちしているアルバイトの両方に駆り出されていることを思い出した。忙しい中メールを送ってきてくれたことを思うと、本当に申し訳ない気持ちになる。

――ピッ

 留守番電話に繋がる合図が鳴り、エースの声とは似るところがひとつもない機械的なメッセージが流れてくる。
 メールをもらった時すぐに電話をしていれば……。そう思っても遅いので、メッセージを入れてまた電話しよう。

「もしもし、ナマエ?」

 おめでとうだけは言おうと考えていると、プツとメッセージが切れた。替わって聞こえてきたのは温かいエースの声で、脳は瞬時に「言わなきゃ」という信号を出し口を走らせた。

「エースおめでと、誕生日。ハッピーバースデー」
「サンキュ。ナマエタイミング良いな。今ちょうどバイト終わったとこなんだ」
「そうなんだ、お疲れ様。あのさエース」
「たんま。できたら会って話してェんだけど」
「え、いいの?大丈夫なの?」
「問題ねェよ。んじゃ今そっち行くから支度して待ってろよ。じゃああとでな」

 携帯電話の画面が通話中から、通話終了の画面に切り替わった。通話時間は42秒。
 エースがバイト先からバイクを飛ばしてもうちまで20分はかかる。その間にメイクを直して、お腹が空いてるだろうから団子を包んでおこう。用意しておいた誕生日プレゼントを持って、エースに会ったらもう一度おめでとうを言おう。

『誠意を尽くして接せよ』

 ふとおみくじの恋愛面に書かれていた言葉を思い出した。


2012.0105
Happy Birthday Ace.
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