拍手連載 親鳥子鳥(4)


「小一時間ほど我慢してくれ」

 そう相手に告げてマルコは自室の扉を閉めた。するとすぐさま、トトトトトトトン、トトトトトトトン、と一定の速度で扉が音を鳴らす。マルコはイスに腰を据える間もなく「やめろい!」と怒号を発しながら力一杯扉を引き開け、いままさに扉を鳴らそうとしていたそれを掴み上げた。

「あーあーこりゃ、貫通寸前だねい」

 マルコは一点だけ異様に削られている扉を見やってから、「何回言やわかるんだ」と窘[たしな]めた。

「扉をつつくな。次やったらお仕置きだよい」

 一言ひとことをゆっくりはっきりと口に出し、理解しているのか反省しているのか、項垂れる頭をひと撫でしてやる。

「あ、お前またやったのか」

 しょうがねェヤツだと笑いながら向かってきたエース。自身も今朝、マルコから同様に――毎度同じことを言わすなという点で――叱られていたという事実はすっかり忘れているようだ。

「エース、こいつと遊んでやってくれい」
「いーけど、マルコは?」
「仕事。いまのうちに片づけなきゃ、夜寝らんねェんだよい」
「あー、そりゃ大変だ」

 ふたりに見つめられるそれは、夜マルコが眠らないと一緒に寝てくれと、彼をつつきまわそうとする。いくら再生能力を持っているマルコとしてもそれは避けたい。そのため、最近はこうして誰かにお守りをしてもらい、その間に仕事を片付ける。そして夜はともに床に就くことにしている。
 ただ、昼間の少しの時間で片付くことがなければ、となりで眠ったのを見計らってからこっそり起き上がって続きをしていることもある。

「とりあえず甲板だな」

 一歩進んでは後ろを振り返るそれを抱き上げて、エースはマルコの部屋から遠退いていった。

「さて、今日はすんなり終わるといいんだけどねい」

「それにしてもお前、だいぶデカくなったなァ」

 10日ほど前までマルコの腕の中で小さくしていたあの鳥は、日に日に成長を見せ、今ではエース曰く「抱き枕にちょうどいいぐらい」だそうだ。彼は長い首をエースの肩に乗せて、いまだにマルコの部屋を見つめている。
 ここで、彼が「彼女」ではなく「彼」だとする理由は、サッチが自身の勘で「こいつは男だ」と言ったからであって、それが真実かは誰もわかっていないと言うことを余談としてあげておく。


2011.0218~0602
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