結局、我らが秀徳高校は危なげなく一回戦を突破した。真ちゃんのプレイも、初めて見たからただ凄いとは思ったけれど、和成の言った私のせいで不調になったりはしていない気がした。

私は秀徳の応援がいる近くの席に座るのも気が引けたので、後方の席で立って見ていた。けれど、秀徳の試合が終わり観客席にいた他の高校が移動する邪魔になりそうだったので、端に避けると人にぶつかってしまった。

振り返りその人を見て言葉を失った。今朝、私が芳香剤を投げつけるだけ投げつけて逃走してしまったその被害者本人がいたから。


「あ、すいません。大丈夫で…すか」
「全然大丈夫っスよ…って、今朝の!!」
「き、黄瀬くん!けっ今朝はごめんなさい!」
「別に顔じゃなかったからいいっスけど…」
「本当にごめんなさい…」


普段ならきっと気に障るモデルであることを鼻にかけた発言も、今はただひたすら申し訳なさで一杯で気にかからない。

暫くの間私たちの間に何とも言えない空気が流れた、その空気を一変させたのは黄瀬くんで、彼が思い出したようにカバンから芳香剤を取り出したためだった。それを私に手渡しながら、訝しむような表情をする。


「これって緑間っちを狙ってたんスよね?芳香剤投げつけるって一体何があったんスか…」
「………」


どうしよう、答えづらい。そういえば私自身、焦って真ちゃんに芳香剤を投げつけて逃げ出したけれど、何がショックだったのだろう。和成にも泣きついたけれど、ただ信頼を裏切られたというだけでここまで…


「俺が、ミョウジに嘘をっ、ついていたからだ」
「緑間っち!?」「真ちゃん!」


聞こえてきた声に、私と黄瀬くんの声が同時に重なる。秀徳の試合が終わったのはたった今だから、走ってきたのかもしれない。試合の後の疲れに加えて走ったからだろう、息がすごく上がっていた。

真ちゃんは私の持っている芳香剤ごと、私の手をにぎった。真っ直ぐに私の眼を見つめる真ちゃんの瞳を見るのがつらくて、視線を合わせられない。


「今まで、騙していてすまなかった。」
「…何で嘘、ついてたの」
「…お前と関わりを持っていたかったから、なのだよ」


関わり?何で真ちゃんが私なんかとそんなものを持ちたがるの?次々に思いつく疑問が頭の中でグルグルと渦巻く。何も答えない私を見てか、わたしの手を握る真ちゃんの手にぐっと力が込められる。


「要するにッ…俺はお前が好き…なのだよ!」


珍しく声を張り上げた真ちゃんにも驚いたけれど、その内容に私は目を見開く。好き、真ちゃんが?私を?

あぁ、そうか、だからだ。大好きな真ちゃんに裏切られたと感じたから、私もあんなに涙が止まらなかったのか。


「私もっ…私も真ちゃんが好き」



浪漫も何もない


私たちの手の中にあるのは、芳香剤だし、ね



「俺のこと忘れてないっスか…?」



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