お風呂あがりに缶ビールのふたを開けてぐいっとあおる。この黄金色をした液体にいとおしさすら感じる。半分ほど缶の中身を飲み干した時、ふとカレンダーを見ると今日の日付の場所には青く雑な字で「21:00〜 飲み会!」と書かれていた。そういえば今日はボンゴレの守護者と飲み会があるんだと言っていたなあと少しだけアルコールの効いた頭で考えていると、携帯電話が鳴った。 「雲雀?久しぶ」 「並盛中前」 「え、」 電子音だけが虚しく聞こえる。彼らしいといえば彼らしいけれど、もう少し、こう、コミュニケーションを取ろうとかいう気持ちを持たないのか。私も人付き合いは苦手だが、彼はまた別の部類なのだと思う。とりあえず服ぐらいはまともな格好をして家を出た。 歩いて並中まで行くと私の恋人は力なく雲雀の肩に腕を回し、立っていた。 「どれだけ飲んだらこうなるの……」 「君の家に帰るって言ってたんだけど」 「そう、だけど、どうしよう。タクシー呼ぼうか」 「君の家は近いの?」 「遠くはないかな」 「じゃあ送ってあげるよ」 「雲雀が…優しい」 「何それ」 「なんか変な感じ」 「噛み殺されたい?」 「やだよー」 ディーノは歩いてはいるものの目を閉じていて開こうとしないので手を引いて帰ることにした。 「他のみんなは?」 「二次会だよ」 「雲雀は」 「行かない」 「わたしはそもそも一次会にいることに驚いたなあ」 「用事があったんだ」 「飲み会、どうだった?」 「僕は好んで酒を飲まないからね」 「残念」 「君は……………飲んでるの?」 「匂う?」 「少しね」 雲雀が少しだけ顔をしかめたので苦笑した。小さなことによく気付く雲雀の洞察力には感心する。しかし雲雀は人との関わりを好まないようなので、それはほとんど戦闘においてしか使われない、らしい。私は戦闘員ではないので詳しく知らないが。 ようやく家に着くと雲雀はわたしの部屋にディーノを放り込んだ。乱暴だ。とりあえずドアを閉めて雲雀にお礼を言う。 「送ってくれてありがとう」 「君と少し話をしたかったから」 「うふふ、本当に変わったね」 「まるで僕が悪人だったような言い方だね」 「だって昔は暴力的で怖かったもの」 「君には何もしていないだろ」 「ディーノと戦う姿は怖かったなあ…」 「なに、今も怖いっていうの」 わたしの背には壁、目の前の雲雀は切れ長でじっと見つめてくる。普段のわたしならこの真剣な雰囲気に飲まれていただろうが、アルコールに侵された頭ではそれは叶わず、何を思ったか雲雀の頬を両手で挟んだ。わずかに目を開いて驚いた表情を見せる。 「しかめっ面」 「何するんだ」 「雲雀のこと怖かったらこんなことしない」 「怖がらないのはいいけど、」 「なあに」 「変な子だよ、まったく」 ふわりと微笑むと頬を挟んでいた手をそっとはずし、わたしの肩を引きよせると額に優しく口づけを落とした。一連の行動はかつて暴力的で凶暴だった彼からは想像できないような優雅なもので避けることができなかった。何事もなかったようにじゃあね、と踵を返す雲雀を呆然と見つめていると先程の感触を思い出して赤面する。ぶんぶんと余計な考えを振り払いドアを開ける。乱暴に放り込まれたはずのディーノはソファに寝ころんでいた。 「大丈夫?」 「ああ…」 「水、いる?」 「いらねぇ」 「じゃあ、もう寝る?」 「何、雲雀に、許してんだよ…」 「え?」 「簡単にキスされて、」 「イタリアではこういうことよくあるでしょ」 「ここは日本じゃねぇか。それに、いい雰囲気だから、」 「いい雰囲気なんて、」 「心配してんだ、大切だし、」 ごしごしとわたしの額を拭う服の袖を掴む。わたしを包むこの人の温かさに涙を流すと途端におろおろと慌ててソファから落ちた。 「ドジ」 「ははは…」 「ディーノは、私の恋人でしょ、」 「………雲雀とは、何もないんだな?」 「おばか」 「いて」 「好きだからね」 「ありがとな」 「好きよ」 「おうおう」 「好「だぁぁぁ恥ずかしいだろ!」 「…」 「、離さないからな」 照れ隠しに顔を背けるディーノの頬に唇を落とし、見つめ合うとお互いに深く溜息を吐いた。二人して冷たいフローリングに横たわるとひんやりと冷たくて心地よかった。 20120712 ×
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