「バカ女!」
「バカはどっちよ!」
「お前みたいな女こっちから願い下げだ!」
「その言葉、そのまま返すわ!」

大通りで語気を荒げてケンカする男女。私と男A(仮名)。車から放り出されて赤の高級外車は走り去っていった。金以外に興味を示さない嫌な男。立ち上がってスカートについた砂を払おうとすると人混みに弾き出されてそのまま噴水に落下。全身ずぶ濡れだ。噴水に落ちる奴って本当にいるんだ…。本当に、ついてない。水を吸って重くなったシフォンスカートの裾を絞りながら噴水の縁に腰掛けるとリボーンが右頬を押さえながら目の前に立っていた。

「何やってんの」
「こっちの台詞だ」
「フラれて噴水に落ちた」
「訳わかんねぇ」
「不可抗力です」
「バカか」
「リボーンこそどうしたの」
「フラれて叩かれた」
「お互い可哀想だね」
「お前よりマシだ」
「…」
「悪かった」
「いいよ」

不意にリボーンが着ていたスーツのジャケットを脱いだかと思うと、優しく私の肩にかけてくれた。こういうとこ、紳士なんだよなあ。

「立てるか?」
「平気」
「服買いに行くぞ」
「いいよ1人で行くし」
「うるせぇ行くぞ」
「…はーい」

何を言っても無駄だとわかったから大人しく従うことにした。私とリボーンは仲がいい。お互い恋人はいるけど、よく買い物に行ったりお酒を飲んだりする。単なる同僚ではない。それが原因で別れた恋人もいたけど。こんなことが以前にもあって、その時も服を見繕って買ってくれた。この人の行動は時々よくわからないがそれはあえて口に出すまい。

「好きな服買ってこい」
「リボーンは来ないの?」
「ああ、外で待ってる」

行ってきまーす、と店内に入るとまずびしょ濡れの私に店員さんがタオルを持ってきてくれた。ありがたく使わせてもらい、次々と服を選んでいく。黒のレザージャケットにホットパンツ、それと寒いから黒の柄タイツを合わせた。やっぱり動きやすい格好が一番だと思う。カードで代金を払い、店を出るとリボーンは煙草を吸いながら待っていた。様になるなこいつ。

「待たせてごめんね」
「やっとお前らしくなったな」
「私がシフォンスカートやフリルのついたトップスを着てる所になんて滅多に遭遇できないんだから」
「さっきの男の趣味か?」
「一応、元彼氏だけど」
「ということはこれから暇なんだな」
「まあね」
「俺の任務に付き合え」
「…内容による」
「ただのパーティだ。俺と一緒に出席することが任務、簡単だろ?」
「次の恋人を見つける格好の場所ね」
「懲りねぇな」
「いいじゃない!つまりパートナーを探してるってことでしょう?私に任せて!」
「とりあえずドレスアップして××ホテルに来い。22時だ」
「りょーかーい」

リボーンと別れると急いで帰宅した。人一倍準備が遅いくせにゆっくりしたいから今時計は15時だけどきっと全ての準備が終わったら調度いい時間になるだろう。それほどに私は遅い。
予測通りメイクアップしたりドレスを選んだりしていると約束の時間より30分前だった。セーフ。ヒールのあるミュールを履いて外に出ると風がとても冷たいかったのでコートのファーに顔を埋めた。タクシー呼びホテルに向かうとちょうどリボーンも到着した所だった。

「間に合った…」
「ドレス似合ってるぞ」
「うれしい」
「寒くないか?」
「ちょっと。早く中に入ろう」

リボーンの手を引いて中に入るとスワロフスキーで出来た大きなシャンデリアが天井からぶら下がっているようなゴージャスな会場だった。圧倒される。

「…すごい」
「さすが××ホテルだな」
「このホテル、有名?」
「ぼちぼちといった所か。俺にとっては今夜の敵だがな」
「どういうこと?」
「このホテルのオーナーの娘に気に入られたんだ。結婚したいらしい」
「へえ」
「お前を俺の恋人と紹介すれば諦めるだろ」
「…」
「今までもそうだったしな」
「私は次の恋人を探しに、」
「お前、もう二度と助けてやらねぇぞ」
「…何すればいいの」
「来るべき時がきたら教える」
「心の準備が」
「必要か?」
「いえ」
「まあ飲めよ」

そう言って目の前のワインを口元に運ばれる。所作は優雅で端からはきっと羨望の眼差しを浴びているだろうが実際は罰ゲームに等しい。極めつけに「喜べ、お前の容姿を買って頼んでるんだ」などと言われればもう何も言い返せない。リボーンに助けてもらえなかったら困る。私もマフィアの端くれだが強くもなく弱くもない。それなのに生まれ持った容姿のせいで男にはよく絡まれ、その度リボーンに助けてもらっていた。私はリボーンに貸しばかり作っているのだ。そうこうしているうちにワイングラスはショットグラスに変わり、中身もウォッカになっていた。これは、まずい。リボーンのほうを垣間見してもニヒルな笑みを浮かべて「まあ飲め」と酒を勧めてくるばかりである。『来るべき時』はいつ…?!酒といえばカクテルぐらいしか飲まない私はいつの間にか意識がなくなっていた。

気がつけばリボーンにお姫様抱っこをされていた。それが外だと気づくといきなり寒気を感じた。

「さむい」
「気がついたのか」
「さむい」
「は?」
「だからさむい」
「お前コート着てるじゃねぇか」
「俺が暖めてやるとか言えないの」
「…」
「…さむいの」

私から抱きつくとリボーンも抱き締めてくれた。うん、あったかい。

「まだ酔ってんのか」
「酒強くないって知ってて、飲ませたくせに」
「おかげで助かった」
「ほんとーに私がいないとだめなんだから」
「…そうだな」
「かわいいかわいい」

首に腕を絡め頭を撫でても拒絶しない彼に上機嫌になり後のことは酒の力に任せた。

「ねえ聞いて」
「どうした」
「30歳になってもお互い恋人いなかったら」
「ああ」
「結婚しよ」
「は」
「…だめ?」
「30じゃ遅ぇぞ。ただの売れ残りだろ」
「じゃあ20?」
「過ぎてんだろ」
「間を取って25!」
「まあ妥当だな」
「約束よ」
「さあな」
「なんで!」
「俺はモテるからな」
「私もモテるから」
「…」
「ふふ」
「調子乗んな」
「誓いのちゅー」
「さっきと同じだな」
「え?」

不意をつかれてキスをされた。深い深いキス。後で聞いた話だが、私はオーナーの娘の前で散々リボーンの恋人面をした挙げ句、キスをしイチャイチャしていると相手は怒って帰ったらしい。お酒の力って怖い。



ジョーカーとクイーンの浮気


title by 知絵梨

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