「こんなところで寝たら風邪引くよ」
「…ん」

ソファで寝ようとするディーノを無理矢理起こした。覚束ない足取りはまだ直ってなくて体を支えてあげてベッドまで行くと二人一緒に倒れ込んだ。他人が見たら私が押し倒されたように見えるだろうなあ。抜け出そうとしたら捕まった。

「離してよ」
「久しぶりなんだからいいだろ」
「勝手ね」
「機嫌直してくれよ」
「もうディーノには頼らない」
「…泣いてるのか?」
「、世知辛いなあ」

頼りにしていた人が急に突き放してきたら?そこには絶望しかないだろう。突き放されたという程でもなく、絶望という程でもないけれど、とりあえず空しい。私、今まで何してきたんだろう。作り上げたと思っていた交友関係は過信なのか。ただの都合のいい女だった?嫌な考えが頭の中をぐるぐる回る。ネガティブすぎ?

「ディーノのといると幸せよ。すごく満たされて」
「うん」
「強くて優しくて格好いいのにへなちょこで」
「うん」
「反対にリボーンと一緒にいるときはいつも不安。愛人が何人もいるくせに愛を囁くし、気分屋だし。…ボンゴレだし」
「…」
「だからディーノといるのは安心。大好きだった。本当に頼りにしてた。なのにあんなこと言うんだもの」
「誤解だって!」
「ただ味方が、ほしいだけなのよ」
「待てって」
「一人にして」

言い逃げるようにしてディーノの下からすり抜けた。案外それは簡単で悲しかった。この人だってボスなんだから、困らせてはいけない。頭でわかっているはずなのに。一人で勝手に傷ついたふりして、みんなの心配も気づいてないふりして、最良の道を示してくれているのにそれさえも聞こえないふりをして。私だって何が正しくてどうすれば一番幸せになれるかということぐらい気づいてる。わかっているくせに実行しない理由は一つ。実行したくないからだ。最後の一手が決められないのは臆病者だから。自分から作った様々な要因が結局自分に絡み付いて、自身の幸せを邪魔している。でも、習慣ってどうしようもない。刹那的な幸せで満足だし永遠なんてなくても充分。なんて、言い聞かせているんだから本当にどうしようもない。今だってほら、困った顔して私のこと見てる。そんな顔させたい訳じゃない。

「ごめんね、勝手にいろいろと」
「俺は構わないぜ」
「ディーノにもいろいろ事情はあるものね。私、いつも遠慮がなくてあなたに困った顔させてばかり」
「何改まってんだよ。お前も酔ってんのか?」
「そうかもね」

頭を撫でられて笑ってみせる。ディーノまで、失いたくないなあ。散々引き止められたけど今日は帰ることにした。不満げな彼をなだめながら。

「何か用事あるのか?」
「私から呼んだくせにごめんね」
「いいって。いつでも呼んでくれよ」
「ディーノのそういうところが好き」
「俺はお前の全部が好き」

二人で笑いあって軽くキスをしてホテルを後にした。これからどこに行くかなんて決めてない。とりあえず歩きながら頭を冷やしてみよう。あんな別れ方したものの頭の中はぐしゃぐしゃ。だから角を曲がったとき、勢いよく迫ってきた車になんて気づかなかった。だって私、咄嗟に避けきる反射神経とか持ち合わせてないし鍛えてもないし。誰か、助けて。音にならない叫びは空中に消えた。












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