『君は僕のものです』

そんなこと言われて落ちない女の子なんていないだろう。しかも相手が骸だったら尚更。


そう骸に言われて落ちたのはもう何年も前。それっきり全く会ってない。なんでも脱出不可能なところにいるらしい。それ以上は聞くだけ無駄だと思った。聞いたところで帰ってこないことには変わりない。たくさん泣いたけど涙は枯れることはないし他の人と付き合っても骸を忘れることもなく。そのことを忘れるように仕事に打ち込んだ。同じボンゴレでも私が所属してるのはヴァリアーで、そして物凄く下っ端。でも年数は長くいるから多少評価はされてるのかな、と明日の任務内容を見て思った。下っ端の私でも明日の任務がいかに危ないかがわかる気がした。頭のどこかでは警告を発しているけどやらないわけにはいかない。何故ってそりゃあ我らがボスは今更説明なんていらないんじゃないかというぐらい荒々しい方…らしい、聞くところによると。というのも私は下っ端だからボスにも直接会ったこともない。でも‘ボスの機嫌を損ねるな’というのは暗黙のルールだ。

そして前日の夜部屋で明日の任務の用意をしているとだんだん不安になってきた。たぶんこの任務は生きて帰れる確率より死ぬ確率のほうが高いんじゃないかと不吉な考えがよぎる。明日が近付いてくるごとに弱気になっている自分がいて、なんだか涙までにじんできたような、

『泣いているんですか』

聞き覚えのある心地よい声が後ろから響いてくる。驚いて振り向くとそこには少し大人になった骸がいた。いろいろ言いたい文句は星の数ほどあって前々からあって本当ムカつくのに、今の私には言える元気はなかった。うまく笑えないまま、久しぶりというと骸は怪訝そうな顔をした。髪伸びたな。

『任務の内容は聞きました』
「ふふ、そっか」
『あなた死にますよ』
「見送りの言葉がそんな言葉なんて」

なんだか不安になるよ、そう言うと骸は早足で近付いてきて私の手首を痛いほど握る。そういえばこの骸は幻覚なんだっけと考えてる冷静な自分がひどくおかしい。

『死にたいんですか』
「どうなんだろ、自分でもよくわからないよ」

へらりと笑うと今度は肩を掴まれた。いちいち力強いんだから。

『君の命は僕のものです』
「そうだね」
『だから死ぬことは許しません』
「うん」
『…それでも行きますか』
「……もう、寂しいのやだよ」
『っ、』

それにボス怖いし、と言うと僕よりあの男ですかと抱き締めた耳元で呟く。「会えてよかった」『痩せましたね、本当に』会話にならない会話をしていると突然骸は時間です、と言った。ああ、幻覚だもんね。

『君が必要です』
「…ありがと」
『本気で言っているんです、僕は』
「代わり、もういるんでしょう。骸は大丈夫だよ」

驚いた顔してたけど、私だって一応ヴァリアーなんだからそれぐらい知ってる。同じ髪型をしていて、小さくて可愛いけど実力もある。器、と呼ばれる人がいる事を聞いて、ほっとした反面寂しくなった。骸にそんなつもりはないのかもしれない。でも長い間放っておかれた私は、常識的な考えができなくて、捨てられたんだという思いに蝕まれた。

以前耳にしたけど幻覚を作るのにはすごく力を使うらしい。有幻覚を作った暁にはしばらく出てこれなかったとか。そうこうしているうちにもう朝だった。出発しないと。



案の定、本当に案の定。こんな死に方なんて考えたことなかった。絶対死因は甘いものの食べ過ぎとかだと思ってたのに、こんなにピストルで打たれるとは。仰向けで倒れる私にもう何発当たってしまったかなんて数える余裕はない。感覚はだいぶ前になくなって今は意識を少し、保っている。任務はギリギリ、成功なのかな。目もかすんできたけど目の前の声ではっとする。骸だ。

『っ、しっかりしなさい!』
「やっぱり骸の言う通りだったね」
『バカです、君は』
「骸」
『なんですか』
「昨日は、ごめん、ずっと待ってると寂しくなっちゃって、意地悪言っちゃった」
『僕のほうこそ、』
「骸が、謝るなんて、めずらし」

ふざけた返事にも笑わないから、他人から見ても私ってヤバいのかなあって思った。一時は持ち直せるかもしれないと思ったけどやっぱり気のせいだ、苦しいし、瞼、下がってくるし、不可抗力。こんな骸が見れるのも珍しいのに、まだ伝えてないことたくさんあるのに、まだやりたいことあるし、なんか、後悔ばっかり、悔しい、そう思ったら涙が出てきた。ああもう、でも骸に会えたからいいか。






まだ伝えてないことがあるのに。本当に大切だったのに、何もできなかった。幻覚でもっと会いに行けばよかったのか。どうすれば繋ぎ止める事ができたのか。徐々に冷たくなっていく体に触れると後悔が溢れてくる。今となってはもう、



記憶をたどった
指先がぬれている



title:棘
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