地下のボンゴレファミリー日本支部に隣接するその施設は雲雀恭弥がトップを務める風紀財団のアジトである。その施設内は主に和で統一されており、床は畳、部屋の隅や欄間には屏風や水墨画、生花等が飾られている。障子を開ければ綺麗に手入れがされた中庭が見えさらに耳をすませば鹿威しのなる音が聞こえてくる。そこは地下と思えないほどに美しい空間であり、幾度か見た光景であるにも関わらず、人を魅了する。

そんな空間で場違いのようにギスギスとした雰囲気を醸し出している者が二人。雲雀恭弥とボンゴレファミリーのボスである沢田綱吉だ。両者睨み合いながらも向き合って座る中側に控えている草壁はこの場から即刻消えてしまいたい衝動に陥った。


「…ヒバリさん!」

「嫌だ」


大きな音を立てて立ち上がるが間髪入れず答える雲雀恭弥に沢田綱吉はぐぬぬ、と唸る。まだ何も言ってないじゃないですか!…なんとなく分かるさ。そんなこと言わずに!なんてやりとりを続ければ続ける程話はヒートアップしていく。雲雀はいくら言われても涼しい顔をして畳に座っているだけ。口を開ければ即「嫌だ」という言葉が出てくる。沢田綱吉はそんな雲雀の様子を見て溜息を吐いた。


「わざわざイタリアから雲雀さんに話つけるために日本に来たんですよ!?話くらい聞いて下さいよ!」

「嫌だね」

「少しでいいですから!」

「…はぁ、君も頑固だね。…分かったからさっさと済ませてよ」

「(なんで俺がこんな目に…!)」



もう一度自分を落ち着かせるために溜息を吐くとケースから書類を取り出す。雲雀はそれをちらりと見るとあからさまに眉に皺を寄せた。

「雲雀さんに実は見合いの話が入ってるんです」

「断る」

「…って言うと思いましたよ…」


不機嫌そうなのを隠そうとしない雲雀の様子を見て苦笑いをする。それもそうだ。実は雲雀に向かって見合いの話が入ったのはこれで一回目ではない。今までにも何度か同盟ファミリーの娘やら裏の社会の権力者の所等からも見合いの話が申し込まれた事があった。だが群れが嫌いな雲雀はそれを全て即刻断っていったのである。綱吉は雲雀の機嫌が悪くなるだけでこれ以上話しても無駄だ、と感じた。


「…はぁぁ、分かりましたよ。また出直します」

綱吉が立ち上がろうとしたとき懐からクリップでひとまとめにまとめられた一枚の写真と紙がひらりと雲雀の座る目の前に落ちる。雲雀はそれを拾うとちらりとその写真に目を通した。と、写真と書類を見た途端ゆっくりとその切れ長の瞳が大きく開かれた。


「…ミョウジ、ナマエ……?」
「…?ああ、同盟ファミリーの娘さんですよ。綺麗な方ですよね。…それがどうかしました?」
「…気が変わった」
「…は?」
「この見合い、受けるよ」
「…え、はぁあああ!?」
「煩い」
「あ、すみませ…ってそうじゃなくて!見合い受けるってどういうことですか!」
「君馬鹿なの?そのままの意味だよ」
「馬鹿、って…一体どういう風の吹き回しですか!?」
「君には関係ないだろ」
「そうですけど!」


沢田綱吉はこれでもかというほど目を見開いた。今まで頑なに見合いを断っていた雲雀が何故?じっとナマエの写真を見る雲雀は何処か楽しそうで、草壁は我が委員長の考える事は今だによく分からない、と一人溜息をついた。