とにかく事を荒立てないように、世渡り上手にして生きること二十数年経った。ここが前世では漫画の世界だったという事はもう既に知っている。中学はなるべく関わらないように、だけれど親から勧められた事もあって緑中に。同じ学校に通うもののハルとはなんの関わりも持たなかった。登場人物に会うと言うことはなかなか無かったし、あったとしても偶然見かける程度で。

今世では生まれてきた場所が割とお偉いさんの所のようで、その上父と母がとても過保護だったからいつも家で過ごしてきた。マナーも社交術もなにもかも徹底的にされて俗に言う「お嬢様」のような生き方を教え込まれた訳である。お金を求めて身代金を要求するために私を誘拐する輩も少なく無かったし、だから、私に対して過保護な両親がいきなりお見合いを受けたとの報告をされればこっちだって多少、いや、それよりもっと吃驚するだろう。

それに父と母が権力者と言うだけではなく裏の社会にまで足を突っ込んでたのだから驚くなんてものじゃない。どうやら我が家はマフィアらしい。お前には心配されたくなくて中々言えなかった…なんて父が目頭を押さえて言うものだからあっさり許してしまったのである。マフィアのボスの娘なのだからそりゃ危ない目に合うに決まってる。

…これなんて死亡フラグ?



「お父様、お見合いと言われましても、突然の事で…」

「ナマエ、この見合いは我がファミリーとの友好を結ぶ事でもあるんだ。…そりゃあナマエが嫁ぐのは父さんも寂しい。…が、そうも言ってられないんだ。とりあえず写真を見てみなさい」


今回ばかりは少々訳ありらしい。渋く唸りながら写真を手渡してくる父に苦笑いしながらももしも相手が太った髭面男だったらどうしようとか不安で中々目を通す勇気が無かった。だがそんな心配は写真を見た瞬間吹っ飛んでいったのである。


「かのボンゴレファミリー雲の守護者、雲雀恭弥さんだ!」


と、同時に別の問題も転がり込んできた訳だが。

「(え、…ええ!?)」


端整な顔立ちにキリッと釣りあがった瞳。それはまさしく漫画で幾度も見たあの並盛の秩序の人な訳で。


「え、あの、何かの間違いでは…」

「何を言う!向こうからも了承の返事が来たのだぞ」

「…そうなのですか……」


何かの嘘だと信じたい。が、現に父はボンゴレの方から了承されたと言うのだから間違いないだろう。でも、群れるのが嫌いな上女に興味の無さそうな雲雀恭弥が何故…?真相は知らないがマフィアボスの娘な以上自分の家族のためにも見合いをするしかない。

これからどうなるのか。ナマエには知りもしない大変そうな未来に一人溜息を吐くのだった。