「あんたがトリッパーって事は知ってんのよ!終いにはシズちゃんと同じ苗字して!絶対許さないから!」


…なんだ、こいつ。


 散々きゃんきゃんと喚き散らして駆け足で去って行くピンク髪の女にとてつもなく嫌な予感がした。やっぱり最近感じた鋭い視線はこいつのせいだったのか。確か名前は──真瀬美香子、だったか。

 今、あいつは「シズちゃん」と言った。…ということは、だ。もしかすると、いや、もしかしなくても絶対あいつも『現実の世界』からやって来たのだろう。面倒臭い事になった。まあ幸い真瀬美香子がここがデュラララとも混合してるとは知らない。見た限りだと真瀬美香子は、もしもこの世界に静兄さんとか折原臨也がいると知ったのなら迷わず接触する計画を立てるだろうから。そうなったら真瀬に対してブチ切れる自信がある。兄さん達に迷惑をかける訳にはいかないから。そう考えるところ、私もブラコンなんだなあと思ったり。まあ折原臨也はどうなっても構わないけど。

 好物のイチゴ牛乳を啜りながらそう考えていると、突然後ろから腰に衝撃が走った。



「千秋ちゃーん!」

「ぐ、っ…げほ、」


 …後ろを振り向かなくてももう誰だか分かった。飲んでいたものが変なところに入って思わず噎せる。一つ舌打ちをしてその声のする方向へと向くと、茶色のふわふわの髪の毛が見えた。そいつは顔を上げることはなく、自分の腰に抱きついたままぐりぐりと頭を擦り寄せてくる。いつまで経ってもそのまま動かないので、いいかげん離せ、の意味も込めてスパーン、と頭を叩いた。


「痛い!酷い!」

「じゃあ早く離せ!いきなり抱きつくな!」

「むー、…しょうがないなあ」

「それはこっちの科白だ」


 もうこのパターンのセリフが何度目か分からない。ぐしゃりと飲み終わったイチゴ牛乳のパックを潰してはあ、と溜め息をつくと萩原から幸せ逃げるよ〜、と言われたのでお前の所為だと頭を小突いた。それにしても、と萩原が言葉を続ける。



「あの子、真瀬ちゃんだっけ?ふふ、変な子だね。『あんたトリッパーでしょ!?』だって。ぷぷ」

「お前にだけは言われたくない」



えー、そうかな?…そうだよ。なんてくだらないやり取りを続ける。今までなんだかんだ言ってこいつと付き合いを続けてきて分かったのだが、結構こいつ変な所で腹黒い。というか今の真瀬の真似結構似てたぞ。