銀髪の少年──獄寺隼人の私への印象は最低最悪な事になっていると思う。そりゃそうだろう、ファーストコンタクトと最後に放った私の言葉ががアレだ。挽回しようと今からニコニコ接したとしても(絶対できないが)中指立てられて追い返されるくらいには横暴な言い方だった気がする。でもあれは銀髪が煙草を教室で吸うから悪い。私は絶対悪くない。

半ば苛々しながら眠たい目を擦りあくびをした。実は最近あまりぐっすりと眠りにつけていないのだ。折原臨也が私に仕向けた不良共の所為で。更に家から盗聴器が見つかった事もあり、まともに休めた示しがない。自分の鋭い目の下にはくっきりと隈が残っている。沢田が私の顔を見た時、かなり酷い顔をしていたのか「ヒッ!」と悲鳴を上げられた。地味に傷ついた。

 よっこいせ、と爺臭い言葉を発しながら買ってきた材料を持ち上げる。池袋でも並盛でも一人暮らしだから自分で料理をしなければならない。面倒臭い事だけど慣れてきたらそれなりに楽しいし料理は好きだから三食カップラーメンになる事はないけど。そんな事を考えながら帰路についていると、


「うわあぁぁああん!」

「は、」


 いつも通る公園を横切る前にいきなり子供の泣き声が飛んできた。何事かと思い思わず覗いてみる。そこには何か黒いもじゃもじゃした物体があった。と、思ったら、



「(…ランボ、だっけ?)」


 牛柄のシャツを着た(確か名前はランボ、だった気がする)もじゃもじゃの子供が涙をボロボロと零しながら号哭していた。取り敢えずその煩い泣き声を止めさせようと片耳を抑えながらそれに近づく。


「おい」

「ぐぴゃ!な、なんだもんね!?」

「…どうして泣いてる?」

「ふ、ぅう迷子に、な、ちゃって…うわあぁ!」

「(…鬱陶しい)」


 はぁ、と溜息をはいてとりあえず宥めようとその頭を撫でた。暫くそうしていたら段々泣き声が小さくなっていき、すると涙を堪えるようにしゃくりあげた。


「…はぁ、私が家まで送っていく」

「!、ほ、本当…?」


 ぴたりと泣くのをやめてぱぁあと顔を明るくさせるランボに少し微笑む。…私は元々子供は嫌いではない。寧ろ好きな方だ。幸い、というか折原臨也が図ったおかげで沢田綱吉の家から私の家はかなり近い。私はランボを抱きかかえながら沢田綱吉の家へと向かって行った。






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 ぴんぽん、と沢田綱吉の家の玄関のチャイムを鳴らす。すると、中からどたどたとこちらへ走ってくる足音が聞こえた。


「はい!…え、平和島さん……とランボ!?」

「迷子になっていたから拾った」

「拾った!?って…、あ……へ、へへ平和島さん、あ、ありがとうございました、」

「いい、気にしないで」


ランボを沢田に渡すと沢田はびくびく怯えながらもお礼を言ってくれた。最初よりかは怯えなくなってくれたのか…な、?まあそれでも怖がっているのには変わりないけど。
 帰るために踵を返そうとすると、ランボがこちらに駆け寄りこう言った。


「千秋!」

「…?」

「オマエは特別にオレっちの愛人にしてやるぞー!」

「え、ら、ランボ!お前平和島さんに何て事言って──」

「…」

「(ひいぃ!平和島さん怒ってる!?)」

「ありがとう」

「…へ?」



 こちらを自慢げに見上げてくるランボの頭を優しく撫でて微笑む。



「──子供は嫌いじゃない」


 驚愕したような顔をする沢田を横目に今度こそ私は家に帰ったのであった。