「…すみません、転校してきた平和島ですけど」

「ああ、平和島さんか。こっちついて来てくれる?」

 担任らしき人物に促されるまま後ろをついていく。一年の教室まで辿り着いた時ふと気がついた。まさか、まさかとは思うが…、


「1-Aかよ…!!」






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「…平和島、千秋。…よろしく」

 低い声でそう言うとぱちぱちと拍手がいくつか聞こえてきた。大人しい子なのかなー?とか、すごい美人さんだねー、とか色々な声が聞こえてきたが、全部聞かなかった事にしておいた。
 きょろきょろと辺りを見回してみる。生徒達はこんな中途半端な時期にやってくる転校生が物珍しいのかちらちらとこちらを見る者が多い。


「まだ平和島さんは並盛に来たばかりです。分からないこと等は優しく教えてあげて下さい」



 担任がそう言い、自分が席に座ったところで丁度良く朝のチャイムがなる。途端に近くの席の子達が一斉に集まってきた。


「平和島さんってどこから来たの?」

「……池袋」

「東京かあ!いいなあ…!」

「分からないことあったらなんでも聞いてね!」


 …つくづく、この世代の女の子ってすごいなあと思う。すごいグイグイ質問してくる女の子達に半ば苦笑しながらも一つ一つその問いに答えていく。自分でも凄い人生を送ってきていると自負している。怪力すぎるこの力の所為でいつも絶えない陰口を聞き流しながら静兄さんと同じように折原臨也を自販機やら標識やらで殴って行く、何の変化もない、でも他の人が聞いたら目を見張るような毎日。ちなみに折原臨也を素手では殴るのは少し抵抗がある。何故なら直接手で触れたくないから。前世で紙の上で見た折原臨也はカッコいいと思っていたけれど、実際会ってみると「ウザい」しか思いつかない。それくらいにあいつはウザい。ノミ蟲ウザい。

 とまあ、並盛に転校してくる前の学校では私は皆にあまり好かれていなくて機嫌を損ねないようにびくびくと怯えられており、こんな風に言い寄られた事は無いに等しかったので少し困惑する。愛想がお世辞にも良いと言えない私だが、何故か大人しいだけと勘違いされているようだった。


「(…あー、面倒臭くなってきた)
…ごめん、少し体調が悪いので保健室に」


 つい癖で質問に答えるのも授業を受けるのも面倒臭くなる。大丈夫?保健室の場所教えようか?と聞いてくる名も知らぬ女子を軽く否してから、適当に屋上で過ごそうかと席を立った所でふっと鋭い視線を感じて、視線を動かした。何か刺々しいその視線の主を探そうときょろきょろ辺りを見回すと、可愛らしい顔立ちの少女がこちらをギロリと睨みつけていた。


「(…あ?)」

殺気、ではない。が、良からぬものを感じて少し落胆した。なんだか嫌な予感がする。折角この“平和島”の名を知らぬ者達が多い場所なのに、折角平和に過ごせるかもしれないのに、また面倒臭い事になりそうだ。

取り敢えず、


「(私を巻き込まないでくれ…)」