雲雀恭弥。並盛中学校の風紀委員で中学生ながらに並盛町を支配し、人々から恐れられている人物である。口癖が「咬み殺す」で、並盛中指定のブレザーではなく、旧服の学ランを常に着ている。 性格がかなり暴力的で、自分に刃向かったり気に入らなかったりするものは徹底的にぼこぼこにする。

漫画で読んだ時は正直なんだこいつ厨二病かっけえと思ってたけど、いざ会うとなったら全力で遠慮したくなるほどには性格に難がある。私の中での会いたくない人ベスト5には入っているだろう。雲雀恭弥は中学生らしからぬ強さでこの並盛風紀委員を束ねている。よく言えば天才、悪く言えば戦闘狂。私のこの力もとっくに調べて知っているのだろう。戦闘狂な雲雀恭弥の事だ。強い奴と戦いたいと思い、私に喧嘩をふっかけてくるのは時間の問題である。


だから、


「絶対会わないようにしてたのに…!」

担任から書類の束をある教室へ運ぶ様言われた。応接室である。池袋からこちらへ来た時に、ここ(並盛)では割と優等生でいようと決めた。だから必死に勉強して先生からの頼み事も進んで引き受けることにしていた、のだが。先生も苦渋の決断だったのだろう。(と、思いたい)

それにしても書類の数が多い。ここで普通の女子中学生なら重くて持てない筈なのに軽々と持つことができるあたりなんか悲しい。そんな事を思いながら応接室までの道のりを歩いていくと、数分で着くことができた。いや、ついてしまった。書類を片手に持ち直してから応接室と書かれたドアをノックする。

___が、中から返事はない。


「(あぁ、めんどくせぇ!)」

覚悟決めてここまで来たってのにいないのか。誰もいないが入っていいのか。いいよな?


「……」


自問自答してからドアに手をかける。ガラリと開けるがやはり中には誰もいないようで。さっさと書類置いて帰るか、と書類の束をこれ本当に学校の机?と疑いたくなるくらいの立派な仕事机にどさりと音を立てて置いた。すると、


「ふうん、僕のいない間に応接室に不法侵入とはいい度胸だね」


後ろから低い声が聞こえてそちらの方をロボットのようにギギギ…と向く。応接室のドアが閉められ、切れ長の瞳が真っ直ぐこちらを射抜いた。

あれ、まさか今やばい状況?


「…いや、ただ書類を届けに来ただけで」

「そう、でも僕には関係ない」

「…」

「君、池袋から来た転入生なんだってね。平和島千秋。君の情報は不可解な事が多すぎる。こんな中途半端な時期に転校、そしてその理由が見当たらない。池袋では自動喧嘩人形と恐れられた平和島静雄の妹でありさらに芸能人の羽島幽平の妹でもある」

「……だからなんだ?」

一体どこからそんな情報を得たのだろうか。というか幽兄さんの妹だと言う事も調べられていたのか。


「…本当は君の事についてあんまり出てこなかったんだけど何故かパソコンに情報が送られてきてね」

「(…折原アァァァ!)」


油断も隙も無い。いつの間に風紀委員に情報を送っていたんだ。こんな事する奴は一人しかいない。言わずもがなノミ蟲である。

「君、強いんだろ?僕と戦ってよ」

「…嫌にきまってんだろ」

「そう、だけど君に拒否権はないよ」


瞬間。トンファーが目の前に迫ってそれを間一髪で避ける。


「うお!」


可愛らしくもなんともない色気なんて皆無な叫び声をあげた。一発目は躱したものの二発、三発と薙ぎ払うだけでは到底出そうにない音を出しながら迫り来るトンファー。反撃したいが、雲雀恭弥に隙ができないしさらにここで力を使えば応接室がどうなる事やら…!


「(こいつ、強すぎんだろ…!)」


一撃一撃を避ける度にヒバリの顔に笑みが浮かぶ。なんかこいつ楽しんでるだろ…!こっちは何も楽しくねぇえけどな!あぁ、なんか段々苛々してきた。あれもこれも私が巻き込まれるのは全てあのノミ蟲の所為だ。そうに違いない。今すぐぶっ潰しにいきたい。間合いをとった所で癖で腕をパキパキと鳴らした。そして再びヒバリのトンファーが牙を剥く。と、


私はあろうことかそのトンファーを掴んで、……掴んで?
バキ、と嫌な音がした。その鈍い音に思考回路がストップする。


掴んで____折ってしまった。


「…!ワオ」

「………あ、」


しまった。


「いや、これはその、___」
「君、素晴らしいね」
「…は、」
「…うん、気に入った」
「…え、」


だから、今回は見逃してあげるよ。そう続けるヒバリに何故だか悪寒がした。













あれから隙を見てダッシュで逃げた。さながらBボタンを長押しするように。
なんだか今凄くノミ蟲に会いたい。私のこの場合の会いたいはそういういわゆる恋人とかに使う甘々な語尾にハートが付きそうな「会いたい」ではなく青春真っ盛りな思春期中学生男女が電話で通じて囁き合う言葉でも無く主に私がノミ蟲を殴って嬲って踏んで蹴るためにそのためにつかう言葉である。間違っても恋愛的な意味ではない。そんな意味で使う事は静兄さんがノミ蟲と仲良くなったり雲雀恭弥がなよなよしくなったりするレベルで有り得ない。

つまる所、私が雲雀恭弥と会う事になったのも私が雲雀恭弥に目を付けられたのも全てノミ蟲の仕業だという事である。八つ当たりな気も(ほんの少し)するけど、本当の事だから仕方ない。
今回は雲雀から解放される事が出来たものの、今度会った時は何されるかわからない。
こんな事なら殴ってでも先生からの頼み事を断って授業でもサボって屋上に閉じ籠ってればよかった。いや、屋上は雲雀恭弥と言う名の魔王的存在な厨二病患者がいるかもしれない。いっその事もうNEETでいいよ私。外に出たくねーよ。

結局授業はサボっ…、ではなく出るのはやめて、私は無断早退した。その次の日少し怒ったように心配したんだからね!とポコスカ叩いて来た笹川京子を見て、天使だと思いました、まる。



title DOGOD69