97



夏休みが終わった。

始業式で全校生徒の前で表彰される百目鬼を見る。
今日の朝も二人でランニングをした。


「そう言えば、なんで信夫さんは俺の事好きになったんだ?」

どれ位好きだったかは体が知っている。
かなり長い期間、百目鬼だけが俺の事を好きだったかは二人きりの旅行で聞いた。

でもどこで百目鬼が俺を知ったのか。
何がどうなってそんなに好きになったのかは知らないままだ。

ただ、自分だって聞かれたら答えに困る質問だ。
何となく分かってはいても、恥ずかしくて答えられない。

意地悪な質問を朝っぱらからした自覚はあった。

だけど、今日から学校が始まってしまう寂しさで思わず意地悪が出てしまった。

百目鬼が無言なので顔を盗み見ると、珍しく照れている様に見えた。

「……中学の時。」

最初の言葉で少し驚く。
思っていたよりえらく前だ。

「柔道部の合同練習で、一之瀬の学校に行ったことがあるんだ。」

走りながら見た百目鬼の顔は少し赤い。
中学生の頃百目鬼に会った記憶はない。

こんな個性的なやつ一度見たら多分忘れないのに。

「それで、ちょうど下校する一之瀬を見た。」

すごい、姿勢が綺麗だった。
うっとりするように言われる。

「それだけ……?」
「そう、それだけ。」

きっかけはたった、それだけだ。
百目鬼の耳が少し赤い。

「それだけだった、筈なのに、その後必死になって一之瀬の名前を調べて、それからここを毎日走ってるって知って、ずっと見てた。」

多分一目ぼれだった。
百目鬼に言われるけれど覚えはない。

告白されるまで、なんか柔道で強いやつがいるらしいという程度の認識だった。

[ 97/100 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]