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朝起きると、百目鬼はもう布団にいなくて、ぐちゃぐちゃになっていた浴衣は綺麗に洗われていた。

起き上がるけれど、尻にまだ違和感はある。
腰は、大丈夫そうだった。普段からの鍛え方が違うからだ。
別にこっちの才能があるわけでは無い、と思いたい。

ふらふらと起き上がると椅子に座った百目鬼に「おはよう。」と言われる。
もう浴衣は着ておらず。さっぱりとしている。

「一人で風呂行ってきただろ。」

俺が言うと「まあ、そうだな。」と答えられる。

「いいなあ。」

俺は今日もう一回入ってから帰るは難しそうだ。
昨日鏡で見た自分の体は鬱血痕と噛み跡だらけだった。

さすがに誰かと出くわすと、気まずいなんてもんじゃない。

「俺も跡つけときゃよかった。」

そう言うと、「つけただろ?」と返される。

何の話だ。キスマークなんてつけた覚えがない。

俺が訝し気に見ていると、百目鬼が困ったように笑った。
無意識にどこかに吸い付きでもしただろうか。

「背中、爪立てただろ?」

爪は短く切りそろえて、引っかからないようにしていた。
つもりだった。

よろよろと百目鬼の元まで行くとTシャツの背中側の首元をグイっと引っ張る。
そこには割とくっきりみみず腫れがある。

「痛くねえ、これ。」

しまったと思いながら聞く。
けれど、自分が残した痕跡に、優越感にもにた感情もある。

百目鬼も精々見せないように困ればいい。

「それよりも、着替えろ。」

朝食も部屋食だからな。

そう言われて俺が百目鬼のシャツ一枚だって事に気が付く。
履いてきたGパンと持ってきたTシャツに着替える。

布団を上げるのは百目鬼がやってくれた。

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