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「馬鹿だな……。」

百目鬼の言葉が刺さる。

「ただ、俺も馬鹿だからなあ。」

続いて言われた言葉に思わず。百目鬼を見つめる。

「動かないって言っても、痙攣するとかじゃなくて、所謂イップスなんじゃないか?」

言い当てられて驚いて百目鬼を見る。

「俺がスポーツ選手だって事、いまいち分かってないだろ。」

困ったように百目鬼が笑う。
困ってるのに相変わらず優し気な顔で、涙がボロボロ零れ落ちる。

「試合相手でも不調抱えてやってる人間はたまにいる。
別に珍しい事じゃない。」

そういう問題じゃない。
百目鬼は何も分かっていない。

「だから、俺は馬鹿だって言っただろ。」

そんな事一之瀬が一番よく知ってるだろう。

「だから、許す。」

それに、と百目鬼は付け加える。

「多分、お父上、知ってて稽古していいって言ってるんじゃないか?」

言われてようやく気が付く。
百目鬼に対してなのか、それとも俺自身へなのか分からないけれど少なくとも信頼されている。



それでも緩んでしまった涙腺は止まらないので涙がこぼれ続ける。

ただ、今の状態がどうなのか考える余裕はほんの少しできた。

裸で抱き合ってたりするな、もしかしなくても。

「あ、あの百目鬼さん……?」


背中を撫でる手が、先ほどまでのなだめているものと違う。
怪しげに明確な意図をもって動き回る手に、動揺する。

尻を撫でられて、思わずひっ、という声を上げてしまう。

「少し、後ろ解しておいた方がいいだろ。」

そう言いながら、百目鬼は俺の尾てい骨を撫でた。

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