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県外にある温泉は割と山の中だった。
「近くにスポーツセンターがあるんだ。」
顔見知りらしいおかみさんに軽く挨拶をしながら俺にそういう。
宿の奥には小川が流れていて、露天風呂から見えるらしい。
それから、貸し切り風呂もあると聞いて夕方の時間予約を入れる。
部屋は一番遠いぽつりとした離れだった。
豪華さはないけど落ち着いたいい場所だ。
荷物を置いて、百目鬼を見る。
「ここの宿泊費おれ本当に払えそうなのか?」
百目鬼がまず最初にそれかという。
それ以外に何があるって言うんだ。
女扱いするなと言いそうになってやめる。
そもそも女扱いの意味が俺と百目鬼で違う気がしたからだ。
「大丈夫。ちゃんと半分払ってもらうから。」
百目鬼はそういうとこの話は終わりとばかりに、日本茶を二人分入れた。
日本茶を飲みながら準備されていた栗饅頭を食べる。
栗菓子は自分で買う事はないけれど、こういうところで食べると妙に美味い。
二人きりでまったりと過ごすのはいいな、と思う。
「これ、美味いな。」と百目鬼に声をかけると、その前からこちらを見ていたらしい百目鬼がほほ笑む。
さすがにもう気が付いている。
大体いつもこいつは俺の事を見ているのだ。
それこそ、温泉宿を楽しもうとかアイスを食べようとか、学校で弁当を食べようという事よりも俺を見る事に注力している。
いつからなのか。
春香と話していたのは、俺に妙な告白をするより前なのだから、そのころからなのだろうか。
「もっと近くで見るか?」
挑発したはずなのに、言い返されることも威圧感を与えられることも無く、百目鬼が当たり前の様に俺の隣に座布団を持ってきて座る。
午前中勝負をしたばかりなのだ。
汗のにおいが少しだけする。
髪の毛を撫でられる。
嬉しくて、甘えたくなる。
自然と目を閉じてしまう。
そんな事百目鬼の前でしかしない。
唇が触れ合う。
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