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それなのに、百目鬼は「驚いた。」と言ってくる。
「今回はちゃんと勝つつもりなんだよ。」
俺がそういうと、百目鬼が好戦的に笑う。
百目鬼も勝負というやつが本質的に好きなタイプなのだろう。俺と一緒で。
百目鬼が向かってくる。
再度襟を取られそうになる。
刹那。体が投げ飛ばされそうになり、こらえる。
それは不発に終わると百目鬼も理解していたのだろう。
すぐさま、足を払われそうになる。
格闘技は駆け引きだ。
押している様に見せて、引く。引いているように見せて押す。
ランデブーの様な時間が過ぎていく。
実際大して時間は過ぎていないのに、ずうっと二人きりで世界にいるみたいに思う。
二人の呼吸があっていく。
……筈がない。
呼吸を合わせるのもずらすのもそこに技術がある。
それなら俺の方が上回っている。
百目鬼が小外刈りをかけるがこらえる。
反撃をと思った瞬間、百目鬼払い腰を食らう。
体が回転する。
二つの技のキレに対応が追い付かなかった。
要はそういう事だ。
柔道のルールでと決めたのは自分自身だ。
だから、たらればは無い。
背中から畳に倒れこんで一瞬体がバウンドするようになる。
百目鬼がこちらを見下ろす。
腕を引かれて起こされて、礼をする。
「あー、糞!!」
負けてしまった。仕方がない。
仕方がないけれど、悔しい。
終わった瞬間、暴言吐くのは最低だと知っていても声が出る。
もう少し、柔道に対応できるようにしていれば。
前から柔術をもっと学んでおけば。
頭の中では次に向けて考えているのに、心が追い付かない。
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