28

自分の中の苛立ちをコントロールできないやつは愚かだ。
だから、俺も愚かな人間だ。

そんな事は知っている。
だけど、どうにもならない。

百目鬼に対してだけ、どうにもならないのだ。


無言で彼の手をつかむと引っ張る。
そのまま歩き出すと、大きなため息が聞こえるが後を付いてきてくれる。

もう十八時を過ぎてるっていうのに、夏の日差しのおかげでまだ周りは明るい。

だけど、しばらく歩くと人気はまばらになっている。

「なあ、セックスしようか。」

百目鬼の動きが止まる。

「冗談だとしたらやめて欲しい。」

しっかりとした声で言われて振り向く。

「別に冗談なんかじゃねーよ。」

もしかしたら百目鬼のふざけた言葉は、そうだったのかもしれないけど。という言葉は飲み込む。
別に、本当は喧嘩をしたかった訳じゃないのだ。

はぐらかされて、うやむやにされて。
だけど、最初に始めたのは百目鬼なのだ。

「……心のこもらない行為をしたって虚しいだけだろ。」


絞り出すような声だった。
それでやっと少しだけイライラしていた心が冷静になる。

多分、ここは絶対に茶化してはいけない瞬間なのだろう。

「歩きながら話すんでいいか?」

俺が百目鬼に言うと、彼は分かったと言ってまた歩き出す。

「別に気持ちが無い訳じゃない。」

はっきり言って全く認めたくない事実ではあるけれど、実際そうなのだから仕方がない。

ただ、百目鬼がなんであんなアホな告白をしたのかはいまだにわからないから、本当に気持ちが通じ合ってるのかは知らない。

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