×××ゲーム
11
松尾と話していると、くすぐったい様なむず痒い様な不思議な気分になる。
俺の気持ちと関係ないところで、恋人ごっこの所為か松尾の態度がくすぐったい。
◆
「あれ? 他のメンバーは?」
放課後、金曜日と同じ空き教室に二人。
椅子に腰かけて松尾に聞く。
「軽音部は金曜だけだから。」
今日は誰も来ない筈だよ、と松尾はギターを肩にかけながら言う。
誰もいないのであれば、別に今日ここに来なくてもよかったんじゃ、なんて思うのにそれを嬉しいなんて思ってしまう自分もいる。
馬鹿みたいだ。
机の上に置いた小さなスピーカーの様なものにギターをつないでいる。
「練習用のアンプだけど、そこは諦めて。」
音の違いなんて分かる程、音楽には詳しくない。
音をチューニングしてから、松尾がこちらを見る。
「あー、これ結構緊張するな。」
手汗でべとべとだよ、と俺の手を取って触らせてくる。
しっとりと濡れた手に初めて触れた。
それから、目を細めて笑って、松尾は俺の手を戻した。
「結構いい曲になったから、ちゃんと聞いてて。」
そう言って松尾は曲を奏で始めた。
静かな曲は、松尾の喉を震わせて、低くて穏やかで、まるで、水面に写る月の様な、そんな曲だった。
歌われている言葉は、愛の言葉ばかりで俺の為にっていう感じは正直しない。
別に松尾との思いでなんかほぼ何も無い様なものだし、一週間の約束も明日で終わりだ。
だけど、低い声に肌が粟立つみたいだ。
一曲歌い終えて松尾がふうと息を吐く。
上手かった。すごいじゃん。何か言葉をかける前に、ぐりぐりと頭を撫でられる。
彼が何をしようとしているのか意図がまるで分からない。
本気で恋人ごっこをするという範囲を超えている気がする。
やめて欲しい。そう伝えようとしたタイミングだった。
「なあ、穂田って男が好きな人?」
何を言われたのか一瞬分からなかった。
「は?」
思わず言い返すと、松尾の手を振り払う。
いつから、どこから、知ってた。
立ち上がるとガタリと椅子が転がる音がした。
松尾の茶色い瞳が俺の顔を見ている。
様子をうかがっているのか、カマをかけてみただけなのか。
それすらわからず、松尾から視線をそらす。
冗談にしてしまうのが一番いい。
認めても、あからさまに否定してもどうにもならない。
「な、なに、言ってるんだよ。」
声が少し震えてしまっている。
だけど、上手くやらないと、とにかく疑いをかけられないようにしないと。
「なに? 松尾、罰ゲームで変な気おこしちゃったか?」
松尾の顔にようやく視線を戻す。
その彼の顔を見て思わず、教室から走って逃げだしてしまった。
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