×××ゲーム
9
◆
放課後の空き教室に松尾をはじめ数人が集まる。
先に罰ゲームの恋人ですと話しておいたのか何も聞かれない。
そちらの方が正直ありがたくて適当な椅子に座る。
びーんという弦がはじかれるような音がする。
松尾が持っているのは多分ギター。
音楽もバンドもそんなに知っているわけでは無い。ギターとベースの違いも実のところよく分かっていない。
うちの学校の軽音部がどんな活動をしているのかもあまり興味が無かった。
「すぐに曲作れって言われても無理だから、とりあえず今日は普通に聞いていってよ。」
松尾がこちらを見て言う。
別にどちらでもいい。
投げやりな返事をする前に曲が始まる。
聞いたことのない曲だった。多分彼らのオリジナル曲。
彼が歌いだした瞬間ゾクリとした。
松尾の声は普通だと思っていた。
告白されたときも、その後も特に何も感じたことは無かった。
だけど歌になった瞬間、その声性質が変わった気がする。
すとんと、心の奥まで届く様な声だと思った。
少しかすれた低い声が教室に響く。
鳥肌が立つ。
罰ゲームまでして楽しいことを見つけなくても、もっと楽しいことをもう見つけている人の歌だ。
肌がビリビリとして、心臓の鼓動が早い。
一曲歌い終わって、松尾がこちらを見る。
「すごい……。
すげえな、お前。」
思わず何もかも忘れて思ったことを口にしてしまう。
少し驚いた顔をして松尾がこちらをこちらを見た。
駄目だと思うのに、ちゃんと理解していたはずなのに、馬鹿げてるって、こいつは碌でも無いやつだって分かっているのに気持ちが抑えられない。
まずいと自分で気が付いたときにはもう駄目だった。
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