ローレライに口付を

5-5

声を出さない方がいい。

今まで話したことのある人間は別に死んでいない。けれど、赤羽は俺の歌を途中まで聞いてしまっている。
何が引き金になるのか分からないのだ。

自分の妄想かもしれないけれど、声を出すことでさえ恐ろしいのに、赤羽はそんな俺の気持ちを一切くむつもりは無い様だった。

「んぅっ――」

くぐもった声が出てしまうと、赤羽の手が俺の胸を撫でる。
そんな場所を自慰行為の時に触ったことは無かった。

だから、そこで快楽を拾えるとも思っていなかった。

ふいに爪で胸の突起をはじかれて甲高い声を上げてしまう。
赤羽はキスをしていた唇を離した。


「薄紅色に色付いてて、とても綺麗だね。」

いつの間にかあらわになっている胸にそう言われて、急に恥ずかしくなる。

「沢山気持ちよくなって、いい声で鳴いて?」

赤羽が笑みを浮かべながら言う。
逃げたい気持ちはあるけれど、体は相変わらず動かない。


「っ、っあ……、っ、っ――」

必死に声を出さない様にしているのに、それを面白がる様に赤羽は胸をこねる。
もう突起はじんじんとしていて、触られるとピリピリとした感覚の中にどうしようもない快楽を拾ってしまう。

口からもれる俺の声を聞いて赤羽は目を細める。
きっと兆してきていることにも気が付いているのだろう。

わざと中心を避けて、太ももに触れられてびくついてしまう。

先ほどよりも少しだけ体が動かせる様な気がするのに、逃げられない。

「触って欲しい?」

何故聞くのだろう。赤羽が俺に何を言わせたいのかは分かる。

だけど、俺が答えないこと位赤羽にも分かっているだろう。

赤羽は俺が何も答えなくても気にした様子も無く、ズボンと下着を手際良く脱がせた。

先走りでべとべとになっている下着を見ても彼の視線が変わることは無い。
今にして思えばアレは俺の歌に対する執着の視線だけでは無かったのだ。

最初からその視線は欲を孕んでいたのだ。
だからこうして俺を押し倒して体をまさぐっていても様子が変わらない。

「俺は君の声で死ねれば本望なんだから、言えばいいのに。」

いつもと変わらぬ歌う様な口調で赤羽は言う。

「それで、その後俺はどうすればいいんだよ。」

やっぱり自分の声は人が死ぬと確認できた後俺はどうすればいい?

「なら、俺のあとを追えばいい。
それは最高だな。もう君は俺以外に歌うことは無いのが特にいい。」

赤羽がはっきりと言う。
その言葉が赤羽がもう昔の自分に戻るつもりが無いことを如実に物語っている。

俺の歌がそうしてしまったのだろうか。
そんな価値は多分無い。

「真白は今は何も考えないでこっちに集中しようか。」

赤羽は困ったみたいに笑った後、先程までは絶対に触れなかった俺の熱に触れた。

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