ローレライに口付を
5-4
「ねえ、歌って?」
ベッドに俺を横たわらせて、覆いかぶさった赤羽が言う。
俺の事を持ち上げる筋力がどこにあったのかと思うけれど、それはあの火事の日も明らかに俺の方が非力だったので元々鍛えていたのかもしれないと思いなおす。
うっとりと俺の唇を撫でる。
それからこめかみにキスを落とされる。
酒を飲んだことはないけれど、ふらふらとして酔った様な感覚なことは確かだ。
彼の混ぜたものが何か薬なのか酒の様なものなのかは知らない。
けれど、全身が緩んでしまった様な気分になる。
涙がにじんでいるのかもしれない。
目頭が熱い。
赤羽が、俺の喉仏を舐める。
残念なことに、体がビクリと跳ねる。
別に感覚が鈍くなったりしてはいない様だった。
嫌悪感があればまだマシだったのかもしれない。
同意を取るつもりもない赤羽は、目があってもうっすらと笑みを浮かべるだけだ。
静かに俺が着ていたシャツの裾をめくる。
スケッチを見た時にどこかで見られたんじゃないかと疑う位肉付きが俺そのものだったことを思い出す。
赤羽の妄想の中の俺と現実の俺があまりにも違う事にがっかりされることはない。
それは分かっているのに、うっとりと俺の腹から胸を撫であげる赤羽を見るとありえないと思ってしまう。
「あっ……。」
他の事を考えてしまっていたのがいけなかったのだろう。
思わず吐息交じりの声が出てしまう。
嬉しそうな表情をする赤羽と目が合う。
「ねえ、もっと声を聞かせて?」
そう言っているのに、赤羽は俺の顔に自分の顔を近づけると口付をした。
吐息まで奪う様な口付に少し安心する。
口がふさがれていたら声は出しにくい。
けれど、赤羽の舌が丁寧に俺の上あごを撫でると、後悔した。
くぐもった声を我慢するのはとても難しい。
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