ローレライに口付を
4-2
自分が彼の人生を奪ってしまったも同然なことは分かっていた。
あの会場にいた人で知り合いは誰もいない。ただ、俺の目の前にいるのが赤羽だけだからなのかもしれない。
けれど、罪悪感が鈍い音を立てて俺に襲い掛かってくるのだ。
部活だって、無視すればそれでお終いなのかもしれないけれどそれが出来ない。
「俺が死ななかったのは、歌を最後まで聞けなかったからだと思うかい?」
そもそも、超自然的現象として、俺の声が人の事を殺せるのかは分からない。
だから、どんな条件で人が死ぬのか、逆に死なないのかも知らないのだ。
「俺でどこまでは死なないか試してみる?」
まるで俺の考えが分かるかの様に赤羽が言う。
「なん……。」
で?と聞きたかった。
けれど、そこで声が思わず出てしまったことに気が付く。
普段全く喋らないので、恐ろしくかすれた小さな小さな声だった。
赤羽は満足気に笑って、それからああやっぱりと言った。
「だって、君の頭の中は歌のことで一杯でしょう?」
俺の頭の中と一緒だね。
うっとりとそう言われて、事実そうであることに気が付く。
歌だ。俺の判断の中心も、思考の中心も、俺の歌の事ばかりなのだ。
「君の判断基準が歌である限り、君は俺を拒めない。」
それこそ歌う様に赤羽は言った。
それから、俺の頬に手を伸ばし形を確認する様に手が俺の口元に伸びる。
抵抗はできなかった。
そっと、赤羽の指が俺の唇をなぞる。
それはまるで大切な物に触れている様に見えた。
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