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ローレライに口付を

4

声なんてものは、かれはててしまえばいいのにとよく思う。

「なあ、君の声は出せないんじゃなくて、出さないんだろ?」

赤羽に聞かれて思わず美術室の机の上を拭く動きがとまる。

赤羽は答えは期待していない様で、こちらを見ていた視線は一瞬うっとりと細められた後、キャンバスへと戻る。


言葉と歌の違いは何だろう。
節があることだろうか、音階があることだろうか。

声を出すこと自体がもう怖かった。

もし俺の歌で誰かが死ぬとしたら、どこから歌かも分からない状況ではもう声も出せなかった。

火災の影響だろうということで声が出ない件は、それ以上誰かに深く聞かれることは無い。
ただ、酷く憐れな目で見られる事だけは、慣れない。
俺は憐れな被害者ではなく単なる加害者なのだから。

「別に俺は君の声で殺されるのは本望なんだし、俺の前でだけは声を出してしゃべってくれてもいいじゃないか。」

当たり前の様に、俺の声が誰かを殺す前提で赤羽が言う。

俺の友達が死ぬ前に言っていた言葉と少し似ている。
彼は俺の所為で亡くなったと思っていないのだろうか。

きっと、俺を憎んでいるのかもしれない。

けれどそれだって死んでしまえば確かめようがないのだ。
この赤羽という男は、本望だとまるで当たり前の様あの時に言ったけれどそれが本当か確かめようがない。

「疑ってるね。目がもう全く信じてない。」

絵筆の動きを止めて、筆洗に筆を突っ込むと赤羽はこちらを向いた。
もう今日は描く気はないし、あまり赤羽は筆だの絵の具だのという道具に頓着している様には見えない。

「一度死にかけても気にしてないんだ。
君の歌で死ぬのが怖いなら、噂を聞いた時点で諦めてるに決まってるだろ。」

だって、そうだろう? 歌うように赤羽が言う。

「君は俺の事をすでに一度殺してるも同然だろう?」

赤羽の瞳がうっとりと細められる。
その言葉に大した意味は無かったのかもしれない。

けれど、俺が否定の言い訳の言葉を飲み込むのには充分だった。

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