ローレライに口付を
2-2
確認に来たという先生に、間違いだと伝えたのに冗談だと思ったのか取り合ってはもらえない。
仕方が無く、放課後美術室へ向かう。
薄暗く埃っぽい美術室の奥の方で赤羽がキャンバスに向っている。
そこに描かれているのは鳥だろうか。
人の様にも見えるけれど、なんだかよく分からない。
声をかけるということが出来ないけれど、赤羽は集中しているのかこちらには気が付かない。
肩をたたけばいいだろうか。それとも帰ってしまおうか。
強制されているとはいえ、部活は単位とは関係ないのだ。
けれど、美しい絵だと思った。
何を描いてあるのかさえよく分からないのに、とても美しい絵だと思った。
それに……。
キャンバスにむかっている赤羽は生来の整った顔立ちもあって彼自身もまるで芸術作品の様だ。
ただ、首や手の甲に見えるケロイドが痛々しくて、その原因が自分だという事だけが彼の汚点の様に見える。
やはり帰るべきだ。
そう思って美術室の扉をもう一度開ける。
先ほどはしなかったガラガラという大きな音がする。
その音で赤羽がこちらを見る。
「ああ、きたんだね。
ようこそ美術部へ。」
と言っても、部員は俺と君だけだ。
相変わらずべっとりとした笑顔を浮かべて赤羽はこちらを見る。
ああやっぱり、入部の件は赤羽がやったのかと思う。
仕方が無く、彼のところまで近づく。
――俺、絵なんて描けないよ
メモに走り書きをして見せる。
「そんなものはどうでもいいよ。
何ならモデルになってくれればうれしいし、そうだな、君の肌に何かを描くのもいいかもしれない。」
そんなことを赤羽は言う。
冗談の様には見えない。
こちらをじっと見据える様な視線が怖い。
「それとも、俺のために歌ってくれるかい?」
絵なんか描かなくても歌ってくれるのならそっちの方がいいなあ。
赤羽は「なあ、真白。本当は声出るんだろう?」と言って笑みを深めた。
俺はどうしたらいいのか分からなくて、筆談用のペンを持つ手が震える。
「……なーんて。
君が歌いたいときに歌えばいいさ。
だけど次も願わくば俺の為だけに歌ってくれることを祈ってるよ。」
赤羽はおかしい。
前だって別に赤羽のために歌った訳じゃない。
それに、死ぬかもしれない歌を聞きたいなんて可笑しい事なのに。それを望みの様に言う赤羽を見てただ、呆然とするしかなかった。
2話了
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