ご指名相手は俺ではありません

2

※視点変更

【虹を見ました】

そう送られてきたメッセージを見た。
まるでそれは符丁の様で、嬉しくなってしまう。

最初、違和感でしかなかったものは、少しずつ膨らんでいる。
最初、直感でしかなかったものはいつしか確信めいたものに変わっている。

多分相手が女の子じゃないと知っても、あまりショックは無かった。
元々その娘を気に入っているという訳では無かったし、理由は分からないけれど、ああそうなのかと事実をストンと受け入れられた。

ただ、この関係をどうすればいいのかは分からなかった。

彼とのメッセージのやり取りは、自分にとってとても大切なものだったし、彼とやり取りを続けるためには店にとっていい客であり続けなければならない。

メッセージのやり取りをして、時々少し彼と話す。

それで充分だと思っていた。

その時までは……。

「今日、彼はお休みだよー。」

間延びした口調で、ヘルプに入った知らない女性が自分に言う。
仕事をする人間として簡単に教えてしまうのもどうかと思うけれど、個人情報がと言われてしまうよりよっぽとマシだ。

けれど、その次の言葉に思わず持っていたグラスを落としそうになる。

「あの人、しばらくお休みらしいですよ。」

事実今日、彼の事はみかけていない。

メッセージもあれ以降受け取ってはいなかった。

何故?という疑問を、隣に座る女性は解消してくれそうにない。

休みというのが方便なのか、それとも本当に一時的なものなのかさえも分からない。

そこで初めて、彼の事を何も知らないのだと気が付く。
ただただ楽しい時間だった、という以外の感情がわいていることにも気が付いてしまう。
その日、その後、女性たちとどんなやり取りをしたのかは覚えていない。


けれど、翌日メッセージを送ってきたのが、彼じゃない事だけは分かる。
可愛らしいであろうトークメッセージを眺めながら、思わずため息を付く。

名前すら知らない人間を探し出せるのだろうか。
仕事だからしていたメッセージだということは、その時完全に頭から零れ落ちてしまっていた。


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